第90話 希望の創出
籠城開始から、30日目。
当初は潤沢に思えた食料も、籠城戦が20日を越えたあたりから、急速に心もとなくなってきた。
すでに2回にわたって配給が制限され、1日の配給は当初の3分の1の量に減り、体力に劣る老人や子供の間から、衰弱で倒れる者が出はじめていた。
子供たちは危険な山中を歩き回り、野生の根菜や、食用になる草を集めたが、それもたかが知れていた。
どれだけ楽観的に見積っても、あと2、3週間で全ての食料が底をつくと思われた。
悪い空気がキャンプを満たしつつあった。
食料も武器も、残り少なく、補給の目処は立たず、頼みの綱の船影が現れる気配はない。
籠城のはじめの頃にはよくあった、夕刻の歌や踊りの披露も、最近は見られなくなった。
笑い声を聞くことすら稀になっていた。
何とかしなければならない。
深い絶望の底で、長い間しぶとく生き続ける人もいる。
歓喜の絶頂にあって、破滅を迎える人もいる。
ただひとつ確かなのは、一切の希望が失われたら、人間は生きてはゆけないということだ。
その希望の形や、実現可能性が問題なのではない。
水と空気が必要なように、生きるために必要なのだ。
公会議でラフレシアへの使者派遣を決めたのも、そういう、生きるよすがとなる希望を創り出すための事だった。
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