第75話 城壁に開く門

10名一組程度の偵察隊が、4組、山を登ってきた。

山道の随所に防衛隊の築いた、倒木や岩のバリケードを手際よく処理しつつ、別々のルートから、それぞれ山頂を目指して進んできた。


その行動は、山のあちこちに潜む、ウィスタリア側の監視役によって把握されていた。

こちらは、司令官であるウェルウィチアによって、敵に存在を気付かれるような行動を厳に禁じられていた。


登山道を登ってくる隊は、簡単な地形の調査も行いつつ、まっすぐに頂上を目指して進んでいた。

その挙動はいかにも正規の訓練を受けた兵士のもので、相応の緊張感を伴いつつも、不安がっている様子はなく、敵から姿を隠そうとする意図は感じられなかった。


頂上の岩体がじかに見渡せる尾根に出たところで、偵察隊ははじめて警戒態勢を取り、岩陰に身を隠して敵の陣地を念入りに観察した。

「城壁」の高さは、100から150メートルといったところ。

登山路は、正面右側で、壁が途切れ、門のようになっている巨岩の間の斜面を登って行くようだ。


その前には岩や土嚢を積んだ胸壁があり、背後には機関銃が据え付けられているようだ。

今は視認出来ないが、戦闘時には、当然崖の上からも撃ってくるだろう。

そうそう簡単に攻略できる拠点でないのは確かだ。


偵察隊はその後1時間程度に渡って、動き回れる範囲で頂上台地の周囲を調べ、合わせて三ヶ所、突入可能な場所を見つけた。

成果に満足して、偵察隊は戻っていった。

下山路でも、何ら妨害を受けることなく、全員が麓の野営地に無事たどり着いた。



ウェルウィチアが重要地点として、見張りを派遣していた全山13箇所の尾根や谷のうち、6箇所で偵察隊の姿が確認された。

それらの地点を結ぶルートは、いずれも山の東側の斜面を通って山頂に出る。

防衛の弱点となる、山の南側を登るルートには、まだ気付かれていないようだ。

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