ピスガ・ジェベルⅡ 第1の戦闘

第74話 山上の警報

最初の10日間は、何事もないままに過ぎていった。


12日目、

見張りから、最初の連絡が入った。

残念にも、陸側の見張りからだった。

ウェルウィチアは、難民全員に手持ち作業を中止して音を立てないよう指示し、東の高台に走った。


遥か眼下の地上を、荒れ地の起伏に見え隠れしながら、じりじりと進んでくる隊列があった。

その数およそ500名。

東部の敗走の旅で出くわした、山賊のようなアムスデンジュン騎兵ではない。

本物の、タマリスク帝国陸軍の大部隊が、逃亡ウィスタリア人を追ってきたのだ。


ピスガ・ジェベルの麓に整列した赤い制服の軍は、やがてその場で休憩に入り、ずいぶん長いことその場に留まっていた。

数時間経ってようやく、部隊は3手に分かれ、別々の方角に動きはじめた。

ピスガ・ジェベルに興味を示す隊はなかった。


タマリスク軍の姿が完全に見えなくなってから、山上の警報は解除され、ウィスタリア人はほっとしてそれぞれの持ち場にもどり、それまでよりもひっそりと、仕事を再開した。



ウェルウィチアも、敵がピスガ山に気づかず、帰ってしまうことまでは、期待していなかった。

これだけの人数がいれば、いくら注意を払ったところで、完全に気配を消すのは不可能だ。


2日後、山の木を切る音でか、あるいは炊事の煙でか、この岩山が怪しいと考えはじめた部隊が、麓に再び集結した。

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