第71話 これほどの高みにも

5000人の難民が数珠つなぎになって山道を行く光景は、まるでどこかの聖地に参詣する巡礼者の列のようだった。


列の先頭が、ようやく山頂に辿り着いたとき、麓の登山口にはまだ半数以上が残り、最後の一人が山頂にたどり着いたのは、登山開始から、丸一日以上が経過していた。

その間、山麓に据えられた3門の機関銃が街道の先を狙い、敵襲に備えたが、幸いにも、そういう事態にはならなかった。


山頂への道のりは、想像以上の困難だった。

木々の繁るなか、途切れ途切れに続く古い道は、場所によっては手を突いて支えなければ登れないほどの急勾配で、

小さな子供や老人の中には、大人が担ぎ上げてやらなければならない者もいた。


いくつか尾根と谷を越え、一気に海まで落ち込む絶壁のすぐ脇を通り、ようやく山頂部の岩体の足元に取り付く。

居並ぶ巨人の胴体のような岩塊の間、足を滑らせたら地上まで転げ落ちて行きそうなガレ場や草地をよじ登ると、

視界が開け、目も眩むような絶壁の下、遥か地上の世界が足元に見渡せる。

大地のうねりのような、荒れ地の起伏。

日差しを浴びて輝く、どこまでも平坦な海。

そして、これほどの高みに思えても、頭上にはさらに高く遠い、無限の天穹が広がる。


登ってくる者を追い落とそうとするような、陰険な登山道だったが、ここに立ってみると、彼ら弱者の群れが立て籠って敵の攻撃に耐えるには、非常に好都合な場所だと分かった。

ピスガ・ジェベルの頂上は単一のピークではなく、東西に長い、不連続な台地が集まって出来ていた。

ここには、大勢が仮の住まいとすることができるだろう。

台地の周囲はほとんどが、巨岩の壁で囲まれ、まさに天然の砦と言えた。

その下の、険しい山腹を辿る山道は、押し寄せる敵を足止めしてくれるだろうし、迎え撃つ側は、上から狙い撃ちにできる。


難民は生気を取り戻し、居住地の整備と、彼らの防衛陣地となる岩山の調査に取りかかった。

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