ピスガ・ジェベル
第68話 大地の果て
5000人の難民はとうとう、自国の西のはずれに到達しようとしていた。
大地の果て、銀色に輝く水面が見えてきた。
アマリリスを含め、はじめて海を見る若い年齢の者達の間からは歓声が上がった。
大人達は、それを微笑ましく聞きつつも、目の前に広がる光景を、厳しい表情で見つめていた。
歴史上、幾度となく国の形や位置が変わったウィスタリアが、この海岸を含む西部の無人地帯を領土に加えたのは約50年前、
前世紀のラフレシアとタマリスクの戦争で、ラフレシアが占領した土地を、委譲される形で獲得したものだ。
カラカシス山脈から切れ目なく続く岩だらけの山岳地帯で、海岸線のほとんどは切り立った絶壁である。
土地は乾燥し、めぼしい川もない。
また、ウィスタリアは長らく内陸国の時代が続き、交易は陸路で事足りていたため、この困難な土地を征服してまで海運を開拓しようという意欲が起こらなかった。
従って彼らの視界の限りに、脱出の糸口となりそうな一隻の小舟すらなく、そもそも人工の痕跡は皆無で、
海岸は、波打ち際まで降りるのも困難な崖、崖で途切れる大地は、葉を落とした柏や菩提樹、あとは一面のシノに覆われた、相も変わらぬ荒れ地の風景だった。
大カラカシス山脈は、西に向かうにつれ、徐々に標高を下げつつも、険しさはそのまま、最後は断崖絶壁となって一気に海に落ち込んでいる。
難民達の位置からも間近に見える、巨大な竜の背のような山岳を越えて北に向かうルートはない。
南はタマリスク領で、こちらに逃れるわけにもいかない。
これまで進んできた細々とした道は、海ぎわの崖の手前で途絶えていた。
リーダー陣の視線が、ウェルウィチアを待っていた。
アマリリスが心配そうに見上げる御者台の父の目は、南側に聳える、ひときわ目立つ険しい岩山に向けられていた。
「あの山は?」
「待ってください、地図に載ってるか、、」
”指導者”ウェルウィチアの助手のようになっている青年が、地図を引っ張り出した。
「ありました。
えぇと、”ピスガ・ジェベル”山だそうです。」
「”ジェベル”は、キリクス語で山の意味だ。
ピスガ山、ってことだな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます