潰走
第52話 国内受難民
強行軍で、倒れる馬が出始めた。
後ろから追ってくる見えない敵の恐怖に、ここまで駆り立てられてきた。
しかし彼らの前方に広がるのもまた、恐怖の大津波に押し流された死の世界であり、決して安息の故郷ではない。
それに気付いて、人々の足はすくんだ。
すずかけ村をはじめ、ウィスタリア西部出身の一行ははじめて、戦火に焼かれた自国の姿をその目に見た。
家屋は砲弾で破壊され、道は瓦礫に埋もれ、街のあちこちに、焼けた馬車の残骸が残されている。
ハゲタカの群がる側溝には、兵士らしい、半ば白骨化した骸が折り重なるようにして横たわっている。
生きている人間は皆無だった。
ここに住んでいた人たちは連れ去られ、あるいは殺され、攻め込んできたアムスデンジュンの兵士は、獲物を食べ尽くした軍隊アリの群のように、どこかへ去っていた。
このまま全滅するかもしれないという新しい恐怖に、身動きがとれなくなったウィスタリア人は、
すがり付くものを求めて、ウェルウィチアの周りに集まった。
父の胸中を思って、アマリリスは憤慨した。
ウェルウィチアは落ち着いてはっきりした声で、集会を開くことを提案した。
その様子からは、長男を失った父親の苦悩は読み取れなかった。
国境から2つか3つ目の無人の村で一行は集まり、ウィスタリア人の伝統的な形式の公会議がはじまった。
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