行進
第34話 あんずの小道
村の中心部から、南に少し外れたところを、ウィスタリア西部方面の幹線道路が通っていた。
大きなすずかけの木が道に沿って並び、その足元には、いつも色とりどりの花が植えられている。
村の広場の方へ入って行く通りの上には、この村の名前と、来訪者への歓迎の言葉を、青と赤の字で記した白い幕が横切っている。
アマリリスを乗せた馬車は横断幕の下を左に折れ、街道を進む人々の列に加わった。
異様な光景に、アマリリスは鳥肌がたつのを感じ、馬車の荷台で伸びあがって、きょろきょろと周囲を見回した。
街道の幅いっぱいに広がった馬車、ないし徒歩の人々の群れは、同じ方向を向き、みな一様に頭を垂れ、押し黙っていた。
そうしていると、なんだか、全員が同じ顔に思える。
アマリリスの馬車の前も、後ろも、見渡す限りの街道が、追放されるウィスタリア人の群れで埋め尽くされていた。
銃を持ったアムスデンジュン兵が所々で、彼らを監視していた。
混雑した道で馬車は頻繁に止まり、なかなか先に進まなかった。
昼過ぎになってようやく、穀物畑の広がる丘陵の向こうに、アザレア市の姿が見えてきた。
しかしどういうわけか、市街地に差し掛かる手前で、右手の農道に入って行き、アザレア市を迂回する形で、南へ抜けるようだった。
馬車は、あんずの枝が張り出す農道を進んでいった。
葉の隙間から差し込む日光が、空中に光の筋を作っていた。
あたりの空気は、どこかうっすらと濁っていて、畑や果樹園のにおいとも違う、鼻につくにおいを帯びていた。
農道を過ぎ、アザレア市から南へ向かう街道に入っても、食事も、休憩も許されない。
それでいて相変わらず、いらいらするほど進みは遅かった。
アマリリスは戸惑い、改めて、周囲の人々を見回した。
アマリリスたちの村よりも、ずっと西の山村からやって来たのだろうか、
馬車を持っていない、貧しい身なりの人たちも多かった。
立ち止まることも許されず、かといって思うように進む事も出来ず、
何日もこうして歩き続けているうちに、こんなふうに、言葉も、表情もないマネキンの群れのようになってしまうのだろうか。
ぞっとした。
殺されてもいいから、家を離れるのではなかったと思った。
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