第30話 うるさい!
「追放って・・・どういうことよ、ねぇ。
ここは私たちの家なのに、あいつら絶対許さない、
ねぇ、、、」
ヒルプシムが、まるでアマリリスに非があるか、彼女を詰問すれば何かが解決するといった口調で、べそをかきながらすがり付いてきた。
アマリリスは黙って、中庭に面した廊下をずかずかと歩いていった。
決して冷静だったわけではなく、ヒルプシムの痛々しいうろたえぶりを見て、激しく燃え上がった怒りの炎が、出口を見失った格好だった。
そうでなければ、彼女自身が今ごろ大人たちの輪に飛び込んでいって、思いつく限り口汚い言葉で、誰彼となく罵倒していたかもしれない。
「ねぇっ、リル、、、」
「うるさいっっ」
あいにく、アマリリスはあまり思いやり深い方でもなかった。
アマリリスよりは半年ほど年上だが、どちらかと言えば気の弱い従姉妹は、動揺していたところに木っ葉みじんに一喝されて、わーっと泣き出し、どこかへ走り去っていった。
アマリリスは深いためいきをつき、廊下の屋根を支える円柱の列の間から、中庭に出た。
中庭の中央には、一本のオリーブの樹があった。
幼い頃、地面すれすれまで垂れ下がった枝の下の空間を小さな家に見立てて、
ヒルプシムやヘリアンと遊んだ場所だ。
小川から引いた上水が流れ込む、大きな水盤の中の金魚は、そのころまだ生きていた祖父が、アマリリスに買ってくれたものだ。
今では鮒か鯉かと思うほど大きく育ち、小さな睡蓮の葉の浮いた水面を、悠々と泳いでいる。
アマリリスは水盤の横のベンチに腰かけた。
テーブルとセットの2脚のベンチは比較的新しく、このあいだ、兄のヘリオトロープとヘリアンサスが、わいわい言いながら二人で組み立てたものだ。
自分の生活からそれらのものが無くなってしまうことも、
自分なしでそれらのものが在りつづけることも、とても考えられない。
胸のつぶれる思いだった。
しかし、そんなことを悲しんでいる場合ではないのだ、おそらくは。
事態は、自分がそうであって欲しいと思うよりも遥かに、悪い方向に進んでしまっていると考えるべきなのだろう。
べきなのだろう、と言うのは、本当のところ、自分のことだから、どうしても冷静に客観的にはなれなかった。
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