カラカシスの離散
第26話 治安維持軍
治安維持軍と言ったって、この村で何を維持するつもりなのだろう。
物盗りすら聞いたことのない、この平和な村で。
だが、彼らの到来に合わせて、村の様子は変わった。
今や、この国(あるいは、タマリスク帝国の一地域)の主役は、人口の約3割を占めるアムスデンジュン人だった。
いままで、国の中の異邦人として、ずっとどこか遠慮がちに暮らしてきた彼らは、降ってわいた自分達の地位に昂揚し、
さしあたりこれまでの主役を弾劾することで、その優位を確認することにしたようだ。
道を歩いていると、アムスデンジュン人の子供が、石を投げつけてきた。
これまでは、いつも視線を伏せていて、ウィスタリア人とは目を合わせようとしなかったのに、
その目には、紛れもない憎悪が、ギラギラと光っている。
大人も例外ではない。
常にへらへらと愛想笑いを浮かべているようだった、農園の小作人が、アムスデンジュン語混じりの、とんでもなく卑猥な罵声を浴びせてきた。
アマリリスはすっかり怖くなって、屋敷に逃げ込み、固くドアを閉ざした。
ショックがあまりにも大きくて、そうやって嫌がらせをしてくるアムスデンジュン人は、実際には一握りの人たちだということや、
眉をひそめてその様子を見ている、残りの大多数には、まるで気付かなかった。
アムスデンジュン人は敷地の中まで入ってきて、畑や納屋から、好き勝手に物を奪っていった。
アマリリスがお産の手助けをした子牛まで連れていかれた。
アマリリスは2階の窓で、悔し涙を流しながらそれを見ていた。
外では、彼らが恐ろしくてたまらなかったが、今は憎たらしくて悔しくて、
ここから、猟銃で全員撃ち殺してやりたいと思った。
治安維持軍は何もしてくれなかった。
気付いてみれば当然だった、彼らは、ウィスタリア人を守るためにやって来たのではないのだ。
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