第24話 クーデター (2)

結局、破滅のその時まで、殆んどの国民に、真実は知らされないままだった。


王子以下、クーデター主導者は、5月24日、全閣僚を王宮に召集する。


その場で、全員の解任を通告するとともに、

ウィスタリアの、ラフレシア帝国からの独立と、タマリスク帝国との統合を明らかにする。

この宗主国変更の動きには、ウィスタリアの東の隣国、アムスデンジュン藩王国も同調していることが言い添えられた。


元老、大臣達は仰天し、全員が、てんでばらばらに、等しく反対を唱えた。

強欲な彼らも、さすがに今は、自分達の保身を画策している場合ではなかった。


このままラヌンクルス王子が国王に即位する分には、ラフレシアからも了承を得られる可能性が高い。

だが、王子がしようとしている事は、帝国に対する直接的な反逆行為となる。

当然、厳しい制裁が課され、ウィスタリア人がラフレシアの砲火にさらされることになるだろう。

帝国にとっては、王子も臣民の一人であり、守らなければならない法がある。

もともと自分の所有にある国家の未来に手を加えるのとはわけが違うのだ。


また、タマリスクの保護を求めるとのことだが、

なるほど、タマリスクは規模こそ、ラフレシアに勝るとも劣らない大帝国ではある。

しかしその政体は、500年以上にわたる治世の過程で、数々の回復困難な矛盾や問題を抱えた斜陽の大国である。

経済、技術の面でも、ラフレシアに勝るところは少なく、むしろ明らかに劣っている面が多い。


最後に決定的な問題が、ウィスタリア、タマリスク双方の国民にある、相互嫌悪の感情である。


両者は宗教を異にし、ウィスタリア人は魂の救済と復活の信仰を、タマリスク人は唯一無二の絶対的存在への帰依きえを、それぞれの神の名で唱える。


また、ウィスタリアは歴史的に、タマリスクを含む東西の大国に幾度となく蹂躙じゅうりんされ、平和が続く現在にあっても、それらの国に対する反感は根強い。

一方のタマリスクでも、ウィスタリア民族の血が備える活力は脅威と捉えられ、在外のウィスタリア人に対する、不信からくる抑圧も厳しいと聞く。


だからウィスタリア国内で、ウィスタリア人とタマリスク人、アムスデンジュン人らは、共に生活しながらも、その連帯意識は民族間で全く分断され、決して交わり合うことがない。

これは、タマリスク国内に居住するウィスタリア人についても同様であろう。


そう、アムスデンジュン藩王国の動機は、理解できなくもない。

アムスデンジュン人は民族的にタマリスクに近く、言語はタマリスク語のかなり近縁な分派であり、共通の信仰を持つ。

ウィスタリアとは違い、軍事侵攻によってラフレシアに組み入れられた国家であり、彼らは確かに、ラフレシアよりも、タマリスクの属国であるのが自然だろう。


だが我々ウィスタリアが、現在の、ラフレシアとの良好な関係を破棄し、タマリスクに下る利益は全くなく、もたらされるのは果てしない混乱と苦難の未来だろう。


一体、新王は、いかなる判断に基づき、多くの国民を危険に晒し、先王の寵臣ちょうしん罷免ひめんして、このような暴挙を為そうというのか?



後の証言によれば、この時、王子は何も答えなかったという。


何も答えず、彼は衛士に、大臣達の拘束を命じた。

手錠を掛けられた大臣たちは憮然ぶぜんとした表情で、会談場を後にした。

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