第23話 クーデター (1)
前例のない規模の多国間戦争、それも地理的・政治的に関連のない場所で同時に紛争が発生するという、不可解な現象。
そのはじめの火種の一つであり、後にカラカシスの離散と呼ばれるようになる、ウィスタリア人を襲った災厄は、
震源地であるウィスタリア王国首都、アザレア市に注目して時系列を辿れば、以下のように進行していた。
5月17日、ウィスタリア王室皇太子、ラヌンクルス・アザレオンが、武装した陸軍省青年将校とともに、王宮、中央議会堂、警察庁を占拠した。
同日、陸軍第2、第3軍が動員され、首都を完全に制圧。
市民の街区をまたがった移動の禁止、5人以上での集会の禁止を伴う、戒厳令が布告された。
ウィスタリアの政変は、このころ急速に普及しはじめていた無線通信により、翌日には宗主国であるラフレシア帝国首都、クリムゾン・グローリーに伝えられた。
内務大臣からの報告を受けた皇帝は臨時議会を持った上で、一旦、静観を指示した。
混乱の原因となる変化は、厳に慎まれるべきだった。しかしラヌンクルス王子は、既にウィスタリア中央政権を手中に収めつつあり、その週のうちに、全土の支配体制の確立にほぼ成功した。
ここまで、一発の銃声すら聞かれなかった。
この状況では、帝国の属国とはいえ、高度な自治権を持つウィスタリア国内の政局として、現状を追認するのが適切というのが、宰相以下、首脳陣の一致した意見だった。
後は、遅れている王位継承宣言を待って、ラヌンクルス王子(その時には、ウィスタリア国王と呼ばれることになるだろうが)を帝都に招聘し、皇帝から、ウィスタリア
だから翌週になって、ウィスタリアからの使者(大使館も通さず)が携えてきた一通の親書を開いたとき、誰もが目を疑った。
その書簡の認証日付は5日前、つまりクーデターの翌日、署名は、ラヌンクルス王子その人だった。
ウィスタリア国内でも、政権交代は冷静に、むしろ好意的に受け止められていた。
頑迷とも、信念の人とも言える老王には同情しつつも、長期化しつつある経済の停滞や、一向になくならない官僚の腐敗にうんざりしていた国民は、センセーショナルに玉座に駆け上がった、若い支配者に期待した。
国家に対する反逆行為は、父親の勇退を自ら演出した息子の構図で捉えられ、
辻ごとに兵士が立つ首都では、窮屈な戒厳令がいつ解除されるのかが
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