第19話 ずっと後になってから

『ウィスタリア人は、機知と気概に満ちた民族として歴史に名を刻み、、』


学校の授業でそう習っても、自分たち、今のウィスタリア人達がその子孫だとはどうもピンとこなかったが、多分本当のことなのだろう。


アマリリスにとって歴史とは、今この自分を起点として過去へと延びる、長い長い影法師のようなもので、

世界は、彼女が暮らす農村と、せいぜい首都のアザレア市ぐらいが全てだった。


ずっと後になってからの歴史家の分類によれば、彼女が生きたこの時代は、

過去200年程度にわたって続いてきた、ある年代区分の終末期にあたる。


産業と技術の発展が、安定した生活と、秩序ある社会をもたらすとともに、世界を小さく、複雑にしていった時代。


かつて平和も戦争も、相対する二者の間で取り交わされていたのが、

遠い、誰もその存在を見たこともないような国の動向や思惑に、無関係でいることができなくなり、

利害関係の輻輳ふくそうが臨界に達した世界は、

やがて燎原りょうげんの炎のような大混乱に突入してゆく。


このあと彼らを襲った災厄も、

ウィスタリアに隣接する、三つの海と四つの陸地の大国、タマリスク帝国の弱体化を狙った、

はるか西方の工業国家群の策謀が遠因にあるとする説が有力視されている。


もっともそれも、大混乱期の後、

すっかり変わってしまった世界を、生存者が再分析したときの解釈である。

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