第10話 届かない

くる日もくる日も、アマリリスは岬を歩き回った。

ついて歩くヘリアンサスやファーベルはまるで目に入っていないようで、

何かに取り憑かれたような勢いで歩きつづけ、呼びかけても耳に届かないことさえあった。


だがやがて、

ぜんまい仕掛けの人形が、ばねの弾性力を失うにつれて徐々に動かなくなってゆくように、その足取りは重く、歩き回る範囲も狭くなってゆき、

最後には、臨海実験所の前の浜で、一日中座り込んで海を見ているようになった。


無理もないことだった。

聞けば、戦争で国を追われ、続いて父までもいなくなってしまった。

弟のヘリアンサスは、それでもアマリリスを励ますことで立ち直ろうとしている。


だがその言葉の一片すら、彼女の心には届かない。


クリプトメリアは沈鬱な思いで、実験室の窓から見えるアマリリスの背中を眺めていた。


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