第2話 まだ喋れない

秋の光が降り注ぐ沃野よくやを、長い髪の女性の胸に抱かれて、進んでいた。


草原を渡る風に吹かれる髪は、彼女と同じ黒みがかった銀色のはずだが、遅い午後の陽に照らされて、燃え上がるような金色に輝いている。


女の人が、彼女に笑いかける。

まだ言葉のしゃべれない彼女は、じっとそれを見上げている。


優しい笑顔、やわらかい声。

その顔は、光の中でおぼろに霞み、よく見分けられない。


しかし、彼女を抱く細くしなやかな腕の、ドレスの袖の刺繍には見覚えがあった。


やがて女の人は、草原の上に、そっと彼女を下ろした。

彼女の頭や頬を撫で、何度か振り返りながら、立ち去っていった。


彼女はずっと、その後ろ姿を眺めていた。

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