バースデイLINEが届く時

 11月18日。帰宅中に付き合っている彼、秋介しゅうすけからLINEが入った。


百合愛ゆりあ、お誕生日おめでとう。今日はごめんな。折角の誕生日なのに、俺が出張で。今度、御馳走するから、とりあえず、おめでとうだけ言わせてくれ』


 ありがとう秋介。その気持ちだけで十分。

 自宅のアパートに着く。郵便受けに、何やらチラシ広告と請求書の封筒が入っていた。まあ、誕生日と言っても、友達が多いわけではない私は、こんなものかと、意気消沈しながらも部屋に入る。


 上着をハンガーに掛け、化粧も落とさず、電気をつけずに、1人のバースデイ感覚を味わおうと、帰り際にハンズに寄って買ってきたキャンドルに火を灯した。

 ひとり寂しく、今日は夕食は外食で済ませ、ケーキだけ買って、キャンドルライトの中、一人寂しく23歳のバースデイを祝おうと思い、テーブルに置いたショートケーキの箱を開けようと思った時だった。


 インターホンのチャイムが部屋に響いた。


 誰だろう……。

 今日、誰かと待ち合わせなどないはず。宅配かと思い、インターホンの画面越しに返事をする。


「ゼフィランサス生花です。お届け物です」


 この夜の時間に花屋が来るのかと思ったが、帽子を被った男の頭が揺れ、玄関前に立っている。顔ははっきりとしなかった。


 少々、怖かったが、鍵を開け、ドアを開けた。


「はい、荷物ですか?」

「お届け物です。白咲百合愛しらさきゆりあ様ですね?」


 そこには、大学生だろうか、好青年っぽい男性が笑顔で立っていた。


「午後九時に、大貫秋介おおぬきしゅうすけ様より、誕生花のお届けです。お代はいただいておいりますので、この鉢のまま、お飾りください。では。ありがとうございました」

「うわあ、すごい!」

「そうそう、言い忘れるところでした。大貫様よりメッセージです」

「えっ!?」


 少し驚いたが、男性がメッセージと言い、11月18日、誕生花。ユリの花言葉を話し出した。


「純潔、純愛、飾らぬ美。いつまでもお美しくいてください。と大貫様からの言葉です」


 大学生っぽい男性は、少し顔を赤らめながら、私に真顔で言った。


「あっ、ありがとうございます」私も少し照れ隠しで俯く。


 男性は、そのままの勢いで、言葉を諭すようにゆっくりと言う。


「カードを一緒に入れております。代わりにですが、大貫様よりハッピーバースデイとお伝えくださいと言われておりましたので、お誕生日おめでとうございます」


 男性は、深々と頭を下げた。


「あっ、あっ、ありがとうございます」

「では、ゼフィランサス生花でした。ありがとうございました」


 花屋の男性は、メッセージを言うとすぐさま笑顔で引き上げていった。

 それにしても、先ほどの大学生なのかは、わからないが、好青年ぽくハキハキとした男性だったなと思った。

 付き合って初の誕生日。詫びかもしれないが、少しの演出と送られたユリに感慨しながら、私は部屋に入り、メッセージカードを開けた。


 鉢をテーブル脇に置き、どれどれ、どんな内容か、送ってくれたメッセージカードに目を通す。


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 百合愛ゆりあへ。


 誕生日おめでとう。

 出張が決まったのが、11月17日だから、今日18日に、君の誕生日を一緒に祝うことが出来ずにすまん。

 代わりに、この花と花言葉を送ります。


 純潔・純愛・飾らぬ美で、いつまでも美しくいてくれ。僕の愛する百合愛。

 一緒に先日、デートで欲しがっていた物を入れておく。僕自身の手でつけてあげたかったけど、今度のデートはお粧し、してきてくれ。


                         秋介より

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 ほぼ1ヶ月前、デート時に立ち寄ったジュエリーショップのネックレスが同封されていた。


 メッセージを読むと、本当は手渡しをして、自分の手で私の首にかけてあげたかったと、書いてある。

 ありがとうと言葉を口に出しながら、ネックレスを鏡越しに、自分で首にかけた。

 結構な金額なのに、まだ大学を卒業して数ヶ月の彼の懐事情もあるだろうに。でも、無理をしたんじゃないかと、思いながらも目を瞑り、秋介に頭を下げるようにネックレスを首にかけた。


 綺麗!


 思わず、口にした。キラキラと輝くダイヤが散りばめられたネックレス。あまり化粧映えしない私の顔もこれをつければ、映えるかもと思い、普段あまり化粧気のない私だったが、今度彼とのデート時には、しっかりとこのネックレスが映えるように、顔を作ろうと決めた。


 そして、ありがとう秋介と、誕生ケーキを一口フォークで切れ目を入れて、口に運んだ。

 その時、ちょうどスマホにLINEのメッセージ音が部屋に鳴り響いた。秋介からだった。


『ハッピーバースデイ! 贈り物は届いたかな? 僕のお姫様』

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