第26話.この世界。4
案内に連れてこられたのは一軒の小屋だった。
「ココで寝起きしてくれ。技教えだと言うなら。明日迎えに来る。赤泥獲りから教える。男だけだ。妹は…。すまないが飯働きで話をしておこう。」
「はい、ありがとうございます。」
「飯は鍋を鳴らすので。ソコの木の椀を持って並べ。椀の色で飯の量が変わるから、同じ椀の列に並べ。」
「はい。あの?便所は?」
「便所?無い。そこらでやれ。面倒だから道の真ん中でするなよ?」
「え?あ、はい。」
そのまま立ち去る男の背中を見送る。
「えー。」
「なんか臭いと思ったら…。」
「あ、水瓶がある…。やだ。変な臭い。」
「ジメジメしてる…。」
姉妹達が話す。
男同士が話している時は女は口を開いてはいけない…。
その為、途端に噴き出したのだ。
「取り敢えず…。寝床を整えよう。」
「「「はーい。」」」
褌姿の男女に混じって飯を受け取った。
魚と芋の粥で何か変な味だ。
並ぶ間でボヤく男達の話では、黒くて大きな椀を持った男達が並ぶ列は肉が入っているらしい。
樵仕事や、相槌の男達の列だそうだ…。
ルーランが言うにはココの飲み水は何処でもあの匂いだそうだ。
驚いた事に本当にそこら辺で糞便をしていた…。
兄妹で床に就く。
朝日の出前にきな臭い風で起きてしまった。
火事かと思ったが、風向きで灰が降って来るのだ。
ココでは何時も何処かの炉が動いている…。
沢山の木を切っているのだ。
姉妹達は飯働きで小屋を出た。
日が出たら食事の列に並び、椀の中の粥を食べる。
変な臭いだ。
案内の男が褌姿で迎えに来た…。
「服着たまま水に入るのか?」
笑う男。
「え?いえ、すいません。」
急いで褌になる。
池に向かう。
「アレだ。あの筏が赤泥取りだ。ココではもう、深い場所しか泥が取れない。壺で掬って筏に空ける。筏には茣蓙が敷いてあるので、水だけ落ちる。」
「そうなんですか?」
「ココではそうだ。昔は茣蓙持って入ったらしいが…。長い草も少なくなってな。茣蓙は数回使う。」
「なるほど…。」
筏の周りは褌姿の男と女達だ…。
女が多い。
「あら、大将。新入りかい?」
「随分と若いねぇ」
「いや、客人の技教えだ。」
「西の氏族の末裔でバリアンの子ダヤンです。」
「「「ハハハハハハ」」ここには西の末裔しか居ないよ?」
「じゃあ、出るぞー。ダヤンついて来い。」
「はい」「「あいよー」」
男女が筏を肩に担いだ
紐が付いた大小様々な壺が筏に引っ掛けてある。
結構重い。
赤い泥の池の中に入って行く。
腰まで浸かると筏が水に降ろされた。
足場が悪い。
ぬるぬるしている。
足元も見えない。
清んだ川や湖で泳いでいたので驚く。
胸まで進むと泳ぎだした。
かなり離れた所まで泳ぐ。
大将が筏の上に乗った。
周囲を見ている様子だ…。
「もうちょいあっちだな。」
「まだかい?」
「ああ、ここらは今年の早い時期に取りつくしたハズだ。」
「どんどん遠くなるねぇ」
「ああ。そうだな。ここらにするか。」
大将が言うと。
「じゃあ、試しで潜ってみる。」
男の顔が水に沈む。
直ぐに男の顔が水面に出て来た。
「ほい。壺があったぞ?」
壺を筏に乗せる。
紐が切れている。
「ああ、あたいが無くした壺だ。」
「じゃあ、ココは最近獲ったな。」
「もう少し進むか…。」
次で潜った男は手に赤泥を掴んで来た。
大将が確認する。
「うん、いいね。良い泥だ」
「泥の深さは肘まで無いぞ。」
「まあ…最近は仕方ないさ。始めるぞ。」
大将の掛け声で壺を筏から外す男女。
皆が壺を持って沈む…。
壺を持って後に続くが…。
水が冷たい。
底がボンヤリとしか見えない。
底に着いた男が壺に泥を入れている…。
直ぐに水が赤く濁り始める。
底は確かに話に聴いた赤泥だ…。
ぬるぬるしている。
泥を壺に入れる。
あっと言う間に濁る、コレでは自分の手も見えない。
女が上がる壺を抱いている…。
続いて上がるが。
「あいよー」
「ほいさー」
筏の上で大将が壺を受け取り泥を筏に空けている。
筏が沈むが泥水が抜けて浮く…。
ああ、大きな壺は浮きなのか。
革で蓋がしてある。
壺を渡す。
空になった壺を受け取り、又潜る。
底は濁ってもう見えない。
手探りで取る。
何度か繰り返すと…。
「大将、もう壺が沈むぜ。」
「早ええな。」
「今日は暖かいからな。良く身体が動くぜ。」
「よし、戻ろう。」
大将が水に飛び込む。
少し離れた所に浮く大将。
皆が壺を筏に縛る。
「おい、大将が飛び込んだ方向が村だ。進むぞ。」
「はい。」
筏を皆で押す。
長く泳いだが、村が見えて来た…。
足が付く。
「おう、ココまで来てひっくり返すなよ。」
「「あいよー」」
筏が向かう先には、木の台が水面から出ている。
木の台に筏を乗せる。
岸に着くと途端に重さが出る。
岸の男達が筏に紐を掛けると引っ張る。
水から揚がった筏を褌の男女が外し始めた。
井桁に組んだ丸太と壺。
木枠と茣蓙が分離した。
泥が乗ったままの茣蓙はそのまま紐に引かれて屋根に入る。
「ココが泥干場だ、俺達の仕事はココまでだ。次の為にココで空の茣蓙を直して、今朝の場所で組む。今日はココで組んでもう一回出る心算だ。」
「もう一回やるのかい?」
「寒いよ。」
「旦那に温めて貰え。」
「あたいが孕んだらしばらく手が足りないよ。」
文句を言う褌の男女達。
笑い声が交る。
「今日は天気が良い、風も無い。良い泥場も在る、好都合だ。休憩したら出るぞ。身体を温めておけ。」
男と数人の女が褌を外して…。
夫婦なのだろう、お互いで身体を温め始めた。
男達が組んだ茣蓙を持ってきたので井桁に固定する…。
茣蓙を持ってきた男と大将が話をしている。
「明日の空きの茣蓙は在るか?」
「在るが随分と草臥れている。」
「組む材料を探すか…。ああ、そうだ。干場の大将、紹介しよう、技教えだ。」
「バリアンの子ダヤンです。赤泥を砂に変える焼きまでお願いします。」
「赤泥焼きまで?」
「はい、黒砂しかやったことが無いのです、生まれた場所では黒砂しか取れませんでした。」
「ほーん、自分の金槌は有るのか?」
「あります。ナイフも作りました。」
「「ナイフも?」」
大将達が顔を見合わせる。
「そうかい…。あんた若いのにやるな…。」
「じゃあ、手斧持ってるかい?」
「はい、あります。」
干場の大将が話す。
「よし。明日の朝飯食べたらココに来な。手斧と金槌持ってな。」
「はい、わかりました。」
休憩が終わると、もう一回赤泥を取ってこの日は終わった。
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