第25話.この世界。3
森の中を進む、ココは谷の外なんだ…。
父と母の歌の痕跡を探しながら…。
「動物が多いわね…。」
「虫もね。」
「暖かくて空気が重いわ…。気分悪い」
「そうね…暑いわね…。」
「谷が寒かったんだよ…。」
数日、森の中を彷徨い…。
「ねえ。これって道かしら?」
「うーん。獣道では無いわね…。」
「この先に村があるかも…。」
「どっちだろう?」
「取り敢えず、西だね。」
道を進むと…。脇に焚き木の痕跡と何処かの氏族を現す紋章が在った。
何処かは解らない。
道を進む。
二日目の昼過ぎ、後ろで草叢が動く音がしてダークエルフ男達が出て来た。
「お前ら何者だ!何処の村の者だ!」
振り向く…。
かなりの年配の男三人だ。
「西の氏族の末裔でバリアンの子ダヤンです。市に向かう途中です。」
構えた矢先、警戒を解かない。
「随分と若いが夫婦か?」
「いえ、兄妹です。」
顔を見合わせる男達。
「市が開く時期ではないぞ。何処の市を目指してる。出身の村は何処だ?」
「はい…。実は父ははぐれで。新しい家を建てました、我々は一番初めの子で兄弟を探しています。」
納得したのか弓を降ろす男達。
「次の市は何処で行われるか知っているか?」
「知りません。教えて頂きたいので先ず村を探しています。」
警戒しながら男が近づいてきた。
「そうか…。良いだろう。俺達は大木の氏族の末裔だ。
「はい、ありがとうございます。」
前に男が一人で後ろに二人。
道の先には木で囲まれた砦の様な村が在った。
「ムンダ何だそいつ等は!」
「来客だ!近隣の村の者では無い
「おお。珍しいな!」
木の門が開いて中に入る…。
村の中の広場は人が多くてびっくりする。
「こっちに来い。」
「あ、はい!」
姉妹も驚いている様子だ…。
付いた先は木の上の家で、中にはかなり年配の老夫婦が座っていた。
「ムンダなんだ。」
「
「ほぉ!ソレはめづらしい。」
「西の氏族の末裔でバリアンの子ダヤンと申します。」
「西の氏族…。鉄の民か?」
「はい。父ははぐれで家を建てました。西の氏族の市を探しています。」
「そうか…。家はココから遠いのか?」
「はい、20の寝床を超えました。」
「20の寝床!ココも遠いが…。ソレは遠くまではぐれたモノだ。」
「ほお、凄いな。ココが果てだと思ったが…。もっと果てが有るのか。」
先導で連れて来た男ムンダが感心している。
「ココで兄弟を探すのか?」
「いえ…。父の言いつけで西の氏族の族長にお会いして村の名を付けて貰う様に言われています。」
「そうか…。ソレは残念だ。だが、歓迎しよう。家族は多いのか?」
「はい、弟が居り未だ小さい子も居ります。」
「そうか。そうか…。ならば何時かはこの村で兄弟を探す事も起きるだろう。」
喜ぶ村長。
「その時はよろしくお願いします。」
その晩は村で歓迎され久しぶりに身体を洗い、床と屋根の有る場所で寝床にした。
朝起きて…。
昨日の宴会を思い出す。
父からは”余り村の場所を示す事は言う物ではない。”と戒めれれていたが。
黄金の不死の王と石の兵隊の話は御伽噺だと思われ大いに笑われた。
おかげで大木の氏族の砦の人達とは仲良くなれた。
砦の理由は
そして嫁攫いで少なくなった村が他の村の嫁を攫う事が起きているらしい。
南に進むなら注意しろと言われた。
幸い、西の氏族は南に居ないらしい。
一番近くの西の氏族の村は赤大池と呼ばれる村らしい。
手斧と金槌を物々交換で食料と薬を分けて貰えた。
珍しい木の実もだ…。
数日掛けて赤大池の村に向かう。
途中で街道が広くなって、すれ違うダークエルフも多くなった。
赤大池の村で鉄器を求める人が多いのだろう。
村が見える
「あと二回は寝ないと到着しないね。」
「そうね…。見えているのに。」
周りの丘は全て木が切り倒されて丸裸だ。
そして村から多くの煙が立っている。
盛んに炭を作って炉を建てている証拠だ。
「あ、木を引き摺ってる。」
樵場もある様子だ…。
赤泥から鉄を作るのは木が沢山居る。
だけど、黒砂から作るより硬い物が出来ると父は言う。
谷では空が鳴って水が増えると淵に黒砂が溜まる…。
不死の王が川を操って黒砂を流しているそうだ。
ココの黒砂は赤泥に負けない位の鉄が出来る。
父はそう言う。
遂に村の門の前に並ぶ。
多くの家族がこの村に用がある様子だ。
門を越えた所で村人に尋ねられた。
「あんた何が必要で何と交換するね。」
「あ、すいません。私は西の氏族の末裔でバリアンの子ダヤンです。」
「は?」
「あの、
「あー、同じ氏族かね!他の村の。」
「あ、はい。」
「はい、はい、はいはい。おう、ボウス。この夫婦を
「あいよー。付いてきな。」
「あの…。夫婦では…。」
声を掛けるが後ろの夫婦に押された。
「はいはい、付いて来なって。
赤大池の村は多くの家族が居るらしい。
槌を振るう音が遠くまで聞こえている。
案内された
床も厚く良い敷物だ。
しばらく待たされたが木の実を出された。
甘いので種を貰っておく。
「
部屋の中に入る主人に頭を下げる。
「何だこの忙しい時期に誰だお前等は?」
睨む
「西の氏族の末裔でバリアンの子ダヤンです。我々は兄妹で我は一番の子です族長の集まる市を探しています。」
髭の長い村長は立ち止まる。
「はて?バリアン…。バリアン…。聴いた事が在ったかな…。」
座る村長…、年配の妻達が後ろに控える。
頻りに髭をさする村長が思案する。
「いえ、父はこの村の出身では無いのですが…。はぐれです。」
「はぐれ!他に赤泥を見つけたのか!!」
興奮する村長に答える。
「いえ…。黒砂です。」
「黒砂か…。」
酷く落胆する
「私が打ち出でました、品です。」
自分の作ったナイフを出す。
抜いたナイフの刀身を見て臭いを嗅いだり擦って味を確かめている。
「黒砂にしては…。良いが。打ち手の腕が未だ未だだな…。コレでは交易の折りに文句を言われるぞ。」
厳しい言葉を受ける。
背中に汗が吹き出る。
「はっ、申し訳ございません。」
己の未熟を教えられる。
渾身の一品なので腹が痛い。
「ふむ…。この程度なら。炉練りだな。良くて相槌見習か…。」
「我が身の未熟を思い知りました。」
「まあ…若い夫婦だ。練れば良いだろう。」
「夫婦ではありません兄妹です。」
訂正する。
「そうだったか?」
村長が後ろの妻に尋ねる。
「はい、その通り。」
「そう申しておりました…。ね?」
村長の妻達が頷く。
「では、兄弟探しか?」
「はい、其れもございますが我々は第一子で家に来ていただく兄妹を探しております。そして族長に村の名を付けてもらう為に族長の集まる市を探しています。」
「ああ、其れも言って居たな…。族長の市は…。未だ先だ。この村からは12、3の日の出で隊が出る。」
「ぜひ加えて頂きたい。」
「ふむ、ソレは構わん。うむ…それまで寝床が要るな。」
「糊口は働きます。」
「ふん、しかし。この腕では…。何処の相槌も難しいな。」
ナイフを返す村長。
「赤泥を砂に変える焼きを望みます。」
受け取る。
「…。下働きだぞ?」
「はい。我が家では赤泥の精製を見た事が無いので。」
「そうか…。ソレも珍しいな。」
髭をさする村長は困惑だ。
「父もそう申していました。生まれた谷では黒砂が取れる淵が幾つもあります。」
父は度々話していた、普通は赤泥を使うそうだ。
黒砂でここまでの固い鉄は珍しいと言う。
「そう言う事なら…。技教えで入れてやろう。但し力仕事だぞ?」
「ありがとうございます。」
頭を下げると、村長が誰かを呼んで席を立った。
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