第5話:地下軍団

迷宮の地下三階の一番奥、下に降りる階段を作る心算だったボス部屋で一人椅子に座っている。

目の前には出来たばかりの10体の岩のゴーレム。

本日のノルマだ。

「ゆけ…。」

無い指先で示すと脳内MAPに指定した鉱区へと歩き始めるゴーレム達。

驚いた事に無くなった小指の先は次の日には生えていた。

日の出の時間で計った結果、先っちょの骨は1日程度で元に戻る。

トカゲもびっくり不思議生物だ(骨です)。

その他にも解ったコトは色々ある。

末節骨を使うと何本でも1日で回復、中節骨まで使うと元に戻るのに2日掛かる。

その先っちょの骨一本回復するのに更に1日だ。

そうなると製造するのは、毎日10体、多い日は足の骨まで使って20体。

どんどん増える岩のストーンゴーレム。

なお、大きな骨を使うとゴーレムの性能が上がる。

素早さは変わらないが選択肢と周囲の情報が増える。

逆に、足の小指程度の骨だと選択肢が少ないので動く監視カメラとしてダンジョンの外に並んでいる。

低スペックゴーレムが数出来ても仕方が無い。

ダンジョン掘る程度なら両手(の骨)で足りる性能で充分だ。

なお、ゴーレムにも有る程度は錬度か習熟度が有るらしく同じ動作を繰り返すと速度が上がる。

上限はある様子だ。

基本の素早さと強度は素材頼みだ。

水晶のゴーレムは堅くてストーンゴーレムより機敏だ。

だが、俺より動きは遅い。

現在、穴掘り全振りなので所持している岩のカウンターが激しく上がり。

水晶も微増している。

始めは三日に一体、水晶のゴーレムだ。

最近は一日一体だが…。

ゴーレムの数が増えて管理が難しいので連隊、中隊、小隊とツリー構造で区分けして動かしている。

脳内MAPに描いたとおりに動くので。

最近、椅子に座って増えたゴーレムに指示を出している時間が多い。

時々散歩はしている。

気晴らしだ。

現場確認も兼ねている。

やはり自分の目が大事なのだ。(目玉は有りません。)

「しかし、もう三階も完成だ…。四階は何にするか…。」

指先の無い手で顎をさする。

四階だから、意味有り気な町の廃墟でも作るか…。

大空間を作って。

「地底湖でも良いかもしれないな。水が有ればの話だ。」

数少ない雨水を集める必要が在る。

監視カメラゴーレムの映像では、外の風景に変わり無し。

雨はほんの一時期しか降らない。

川は春に雪解け水が泥と共に濁流になって流れる。

鉄砲水がこの盆地を埋め尽くして消え。

疎らに草花が生えて、雨季に突入。

花が咲いて、直ぐに乾季で全てが消える。

長い乾季の後に風が強くなり、冬が来て。

乾燥した冷たい風の砂塵が平野を霞ませる。

遠くの山並みが白く大きく見えて又、春が来るのだ。

過酷な世界だ。

しかし、待っていろよ冒険者共。

罠も迷路も用意して待っているからな!!






アレから随分と時間が経った。

主観で申し訳ないが、三回は冬を越したハズだ。

ダンジョン、地下深く最下層に作った豪華な玉座の間。

そのお誕生日席に座る俺。

ココが地下20階層、俺の城だ!

ダンジョンが完成してまうとヒマになり装飾に凝った。

自慢の部屋だ!!

迎え撃つ為に各ゴーレム達に武器も持たせた。

4階層からレアにルビーが出て。

5階層目からぼちぼち鉄鋼石や銅鉱石が出始た。

10階層から金、銀。

14階層からダイヤモンド。

その他貴金属がレアで出ている。

その為、財宝は沢山ある。

宝箱に隠し部屋、落とし穴に吊り天井。

巧妙な罠も冒険者の心を折らないための泉(水の確保は未定)も作った。

各階層のボス部屋には中ボス大ゴーレムを配置して階段を守っている。

俺の肋骨と貴重な素材をふんだんに使って贅を尽くした。

神はアダムの肋骨からイブを作って”汝の妻を選べ”と言った。

俺は骨でゴーレム作って24時間365日無給の無休で働かせるのだ。

換気装置も排水装置も作って生命の空気環境を清浄にしている。

ゴーレム達が地下でぐるぐる世紀末覇者的な回転バーを廻して、維持してるのだ。

力作だ!

拳を握る。

「力作なのだ!フハハハハハハハハハハハッ、」

高笑いを止め、玉座の手すりに肘を置き額にを摩る。

金色のガントレット。

全身骨格標本でダンジョンボスはイマイチなショボイので金で全身鎧を作った。

いきなりフルアーマーゴールドセイントで中身は骨だ。

「ハハハハ…。」

力の無い笑い声が玉座の間に響く。

地金の金では強度に問題が出るが。

各種魔法防御とパワーアシスト。

風魔法のジェット噴射とイオンクラフトで空も飛べる。

背中にアタッチメントを付けるだけでオプション兵装を選択できる。

アイテムは自身の骨を消費する事に寄ってエンチャント出来る事は昨年の春に判明した。

自立武器を作りたかっただけなのだが…。

各種、魔法の武器と防具を装備したエリートゴーレム達も居る。

罠用待伏せ弩弓も作った。

自動給弾の連射機能付きの力作だ。

堅牢なダンジョンは完成したのだ。

来訪者を楽しませるアミューズメント機器は揃った。

だが致命的な問題が発生した…。

「ククククク…。」

非常に大きな問題だ…。

黄金のガントレットを眺め握る。


「客が来ない!!」


冒険者が来ない所か、虫一匹入ってこない!!

豪華な玉座に背を預ける…。

堅い椅子で背中がずり下がる。

装飾の入った天井のアーチドームを見て呟く。

視界の隅には外の映像だ。

「そりゃー、周囲100km、水も草木も無ければ来れる訳無いよな…。」

リッチが悪いのは認める。

人類には過酷過ぎる大地だ。

「いっそのこと、この岩山を全て塔に作り変えるか…。」

何せ素材の岩石は山の様にある。

遠くから見えれば…。

人工物だと解れば近づく者も出るだろう。

岩盤の岩山が基礎だ、60階位弗アーガの塔を建てても…。

いやいや、羽のある侵入者なら簡単に侵入を許してしまう。

「だが、悪くないな…。いっその事、城にしても良いか…。」

脳内MAPで設計図を書き始める。

先ず、作り方だ。

基本ブロックを作ってタワークレーンで積み上げる方法で建築しよう。

コア部を中心に添えて各フロアの基本構造は同じにしてパーテーションで自由に間取りを替えれる用に考えよう。

外には自動迎撃装置を増産して配置、火線を濃密な物として敵の侵入を阻もう。

空掘りに城壁も必要だ!!

脳内設計図の分解組み立てを繰り返す。

問題点を洗い出すのだ。

黄金のガントレットを額に当てる。

「ククククク、コレであと三年は遊ぶ事が出来る。」


2万を越えるゴーレム達が岩山を隠す勢いで塔を建てた。

岩山を削り基礎にして塔を建てる。

ブロック工法で石材を積み上げるダケなのでタワークレーンが廻る度にどんどん摘み上がって行く。

ブロック同士の凹凸で保持するので地震にも強い。

結合面に水の浸入を防ぐ溝も有る。

進入した水が凍ってブロックを持ち上げる事は無い。

風の強い日は休工だが内装工事が出来るので問題ない。

途中で落雷事故が起きたが。

”神さん怒っているのか?”と心配したが、関係の無い自然現象の様で、避雷針を立てる事で対応した。

周囲に高い建物は無いのだ、そりゃ落ちる。

後からアース接地ラインを確保するのが地味に苦労した。

一応、増設用のパイプシャフトは作って置いたのだが、進入者を防ぐ為に複雑にしたのが裏目に出た。

接地抵抗計るのも…。


完成した暁には地上34階、地下20階の巨大テナントだ。

なお。エレベータは無い。

入居者は自力で階段を登ってくれ。

俺?俺は骨の有る所ゴーレムの近くに転送できるので問題は無い。

「フハハハハハハハハ!完成した暁にはネオン看板とサーチライトで冒険者達を歓迎しようではないか!!」

俺は地下の最下層で椅子に座ったまま脳内ブロックを組み立てているだけだ!

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