虚しい勝負

 この勝負、長槍を持つ族長が有利と見える。しかし彼は白髪の男の殺気に圧され、気が弱くなっている。

 一方で白髪の男は気力こそ十分だが、逆に気持ちが前のめり。焦りを抑え、決め切れるか。

 武に長けた騎士ホラインの目から見ても、勝負の行方はわからない。



 合図もなく、互いに構えた瞬間から、すでに勝負がはじまっている。


「死ねえええ!!」


 白髪の男は絶叫しながら駆けだして、族長に襲いかかる。

 族長は怯みながらも、長槍を振り回して牽制する。巧みとまでは言えないが、そこそこの槍さばきで白髪の男を近づけない。昔取った杵柄か、年老いても元衛兵だ。


 二度、三度、四度と何度も攻めあぐね、白髪の男は耐えかねて、ついに捨て身の突進を決行する。槍の穂先を肩で受け、半身を捨てて剣を持つ片手を伸ばす。


「これで終わりだ!」


 全霊を込め、気勢を上げて突きを放てば、剣先が族長の首を……わずかにかすめ、空を切る。

 族長は石突で白髪の男を突き放す。


 一連の攻防で、すでに二人は息も絶え絶え。ともに高齢の老人である。真剣勝負も長くは続かぬ。

 さりとて、ここで諦められるものならば、何十年も仇討ちの旅なんぞしておらぬ。白髪の男は弱った腕で剣を振る。……されど無情。肩が上がらず、弱い突きを繰り返すだけ。

 それに対する族長も槍を持つ腕が上がらぬ。


「死ね、死ねえっ!」

「死なぬ、死なぬ!」


 威勢が良いのは声ばかり。双方、交互にもつれる足で攻めかかり、休むように守りに入る。


 こうなっては泥仕合。お互いにみっともない姿をさらし、なお決着がつかぬまま。疲れたからと、ここで止めるとも言い出せぬ。


「死ね、死ねっ……」

「死なぬ、死なぬぞ……」


 ついにとうとう双方ともに疲れ切り、声を張ることもできなくなる。


 空は澄み、鳥が鳴く……のどかなり。朝にはじまった決闘は、もうじき昼を迎えつつあった。

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