復讐に生きる道なし

 かくして双方、決闘の運びとなる。戦いは一対一、ともに助太刀、代理は禁止。

 白髪の男はホラインに礼を言う。


「ありがとう」

「礼を言われることではない。私情での決闘は、道義に反したものである。本来ならば許されぬ」

「ならば、なぜ決闘などと言いだした?」


 不可解な顔をする男に対し、ホラインは目を伏せる。


「それが最も丸く収まる方法だろう」


 人の生死がかかっていては、どうあっても平和には収まらぬ。神の教え、人の道を説くならば、復讐など諦めろと言うところ。しかし、どう言っても聞かぬのだから、こうするより他にない。


(他にない。他にないとは嫌な言葉だ)


 ホラインは己を笑う。

 諦めざるを得ないのは、知恵と力が足りない証拠。無力に甘んじ、より良い結果を求めなくなった時、魂は腐っていく。

 昨日より今日、今日より明日と言うではないか。しかし、今のホラインは明日なき者を説得する言葉を持たぬ。



 しばらく後、集落の広場にて白髪の男と族長は一対一で向かい合う。白髪の男は直剣を、族長は長槍をそれぞれ手に持つ。

 集落の者たちは、老若男女誰もかも、緊張して見守っている。おそらくは白髪の男が勝ったなら、全員で族長の仇を討ちにかかるだろう。いかに過去の因縁といえど、彼らとて族長を殺されては、黙っているわけにはいかぬ。

 白髪の男も承知の上。むしろ彼は、そうなることを望んでいる。はじめから生き残る気はさらさらなく、憎んだ仇を殺すため、ただそのために生きてきた。

 これほどかなしい生があろうか。生かすためでなく、殺すための生。死ねば終わりの人生を、終わらせるため生きるとは。

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