公正を愛すべし

 どちらの言葉を信じるべきか、ホラインには分からない。


「とりあえず、その豆の木を見せてもらおう」


 そうホラインは言ったのだが、両者とも聞き入れない。


「ばかばかしい! 時間のムダだ」

「出しゃばりめ! お前に何の権利があって、オレたちを裁くというのか!」


 公平な裁きなど誰も望んでいないのだ。公平さを求めぬ者がいるならば、それはどんな者だろうか?

 おそらくは、どちらにも非があるとホラインは見た。


「騎士は正義を愛す者。正義の根幹、公平の精神マインド・オブ・フェアネスを持たぬとは救いがたし。もはや勝手にするが良い」


 これ以上かかわってもロクなことにはならないと、ホラインはさじを投げる。

 そして両者をへだてる剣を引き、争いの続きをうながす。


「さあ、好きにやれ」


 そう言われても、第三者に見られていては、やりにくい。

 旅の剣士も男たちも文句を言う。


「好きにやれと言われても、それならよそへ行ってくれ」

「絶対邪魔をするだろう」


 ホラインは眉をひそめた。


「双方が卑怯なまねをせぬように、見張ってやろうと言うのだぞ。何を困ることがある」


 男らは舌打ちしながら棒を引き、ぶつぶつとグチをこぼして背を向ける。


「けっ! やめだ、やめ! 覚えてやがれ」


 そこに剣士がエストックを突き出したので、ホラインは慌てて剣を振り上げて、エストックの剣先をそらす。


「背を向けた者を襲うとは!」

「騎士様は大甘おおあまだ。やれる時にやらないと」


 悪びれずに言う剣士に、男らは恐れをなして逃げ出した。


「いかれ剣士め!」

「何て奴だ!」


 ホラインは剣士をにらむ。


「仮に相手が賊であれ、殺してよいとはあいならぬ。いや、賊ならば尚のこと、慎重に対処せねば」

「賊ごときの報復が怖いのか? よく騎士が務まるな」

「殺しは必ず恨みを買う。世の中に無縁の者などおらぬのだ」

「それじゃ、あたしは例外か」


 旅の剣士は素顔をさらす。

 長い黒髪の女顔に、ホラインは声も出ない。

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