後日談

 山を下りれば、もう夕方。

 ホラインとダーバイルはダルフの宿でもう一泊し、オンドルに折り返す。


 早朝、オンドルへの帰り道、ダーバイルは夢を惜しむ。


「ああ、しかし、もったいない夢だった……」

「やはり永眠したかったか」


 ホラインにからかわれても、ダーバイルは真剣に言う。


「目覚めないのも嫌ですが、もう少し極楽気分を味わっていたかったというのも、また素直な気持ち」

「次は現実でやるのだな」

「そうしたいのは、やまやまですが……いつの事になるのやら。今度の旅もまたハズレ」

「それでもまだ冒険をやめるつもりはないのだろう? 何事も挑んでみねば、成功も失敗もない。挑む心を無くした時が、本当の夢の終わりだ」


 肩を落とすダーバイルをホラインは励ました。

 ダーバイルは小さく唸り、ホラインに問う。


「ところで旦那、ちょいと話は変わりますが」

「うむ、何だ?」

「あの玄室で、旦那も同じ夢を見たんで?」

「ああ、まあな。それがどうした」

「どうして旦那は平気だったんで?」

「どうもこうもあるものか。あんな所に現れる怪しい女を信じられるか」

「でもでも、美女に酒ですぜ」

「酒も女も良いものだが、下品な女はよく好かぬ。酔えれば良いという意味では、ただからいだけの悪酒あくしゅに同じ」


 はっきり言い切るホラインに、ダーバイルは口笛を吹き、冷やかした。


「へえ、なるほど! 上品なのが良いんですか」

「ああ、そうだ。花のようにしとやかで、知恵の女神メーティスのごとく理知的な――」

「高望みしすぎでしょ。そんなんじゃ永遠にヨメさんなんて見つかりませんよ」


 手のひらを返すような、いやに冷めたダーバイルの一言が、ホラインの胸にぐさりと刺さる。


「いや、これは宝探しと同じ事。男なら高嶺たかねの花を探し求め、自ら高山に挑むもの」

「まあ年を食わない内に、ほどほどで妥協した方が良いですよ」


 勢いでごまかそうとしたホラインだったが、ダーバイルは乗ってこない。


 百人いれば百様ひゃくようの好みがある。人の心は測りがたし。

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