妖しい誘い

 ホラインと老人はやがて広い玄室げんしつに出る。

 玄室の真ん中には石段の高座があり、その上に金銀で装飾された祭壇があり、さらにその上にきらびやかなひつぎが安置されている。


 玄室でホラインはクスクスと女の笑い声を聞いた。こんな所に女性がいるわけもなく、風のいたずらとホラインは思っていたが、どうも違う。

 女の声は一人ではなく、何人もいるようだ。

 ホラインは声のする方へと歩く。声は祭壇の裏側から……。


 そこには小さな泉があり、うら若き乙女たちが、あられもない格好で水浴びをしているところ。

 泉の上には陽が注ぎ、乙女たちのみずみずしい肉体をあらわにしている。

 よく見れば、その中にダーバイルの姿があった。彼は乙女たちに囲まれて、ふ抜けた顔。


 ホラインは乙女たちを怪しんで、老人に呼びかけた。


「ご老人。こんな所に女性がいるわけがない。みな魔性のものであろう。もしや、奴らがご友人の仇やも……」


 しかし老人は虚ろな目でただ泉を見つめてばかり。


「ご老人、しっかりなされ!」


 ホラインは彼の体を揺すったが、まるで魂が抜けたよう。ぼんやりとして振り向きもしない。

 その内に乙女たちは、ホラインと老人に気づき、裸のままで駆け寄ってくる。

 ホラインは剣を抜いて、おどしをかけた。


「寄るな、魔物め! 白刃のになりたいか!」


 ホラインは言い切るも、乙女たちはクスクス笑い、少しも恐れる様子がない。


「大丈夫、怖くないわ」

「私たちは愛の精」

「向こうでいっしょに遊びましょう」


 乙女たちはホラインと老人にまとわりつき、泉の方へと手を引いた。


「ええい、放せ! 放さぬか!」


 どういうわけか、ホラインは腕に力が入らない。乙女の白い細腕を振り払うこともできないままに、泉へと誘われる。

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