31 ドワーフ娘2
月に一度、僕たちは新市街のとある居酒屋に行く。
彼女の故郷で作られたお酒があるのだ。
販売ルートがないため酒屋には卸されず、家族に送って貰うか、偶然見つけたその居酒屋に行くしかない。
家のストックはもう飲みきってしまい、彼女にとっては久しぶりなのだ。
もっとも、彼女は他のお酒も飲むので断酒をしているわけじゃない。
「らっしゃーせー」
みせに入ると、店員が威勢の良い声を上げる。
僕と彼女が胸につけたバッジを見て、
「大人2名様ですね、こちらへどうぞ」
と奥の方に促した。
見た目で年齢が計りにくい亜人が住んでいるこの街では、役所に申請するとこのバッジを貰える。
20才以上ですよ、と分かりやすくアピールできるので、居酒屋などで重宝するのだ。
付けなくても別に構わないが、何かと面倒がなくて済む。
だからと言って彼女の様に胸を張って薄い胸を誇示するように見せるようなものでもない。
この制度を知らないときにいろいろ聞かれて手間取った経験を考えると、仕方ないのかも知れないが。
テーブルに着いてメニューを開く。
彼女が真っ先に手に取るのはドリンクメニューだ。
頼む物は決まっているが、曰く見るのが楽しいそうだ。
分かる気はするかもしれない。
メニューをあちこち見ようとせわしなく動く目が楽しげだ。
メニューを開いてすぐ、店員がおしぼりとお冷やを持ってやってきた。
今日のオススメを勧めてくる。
何回か見ているためか顔とメニューの距離はそんなに近くないが、初めて来たときは食い入るようにみていたっけ。
一通り聴いた後、彼女は目当てのお酒を頼んだ。
僕も続けて生ビールを注文する。
それと、枝豆とかのつまめるものを。
程なくしてジョッキに入ったお酒とつまみが届く。
来るまでに決めていたお酒の合間に食べる軽い食事を注文する。
大半は彼女のだ。よくのみよく食べる。
そんな種族が1mを過ぎたあたりで成長が止まるのが不思議で堪らない。
この前は口に出したら拗ねられた。
彼女はジョッキに入ったお酒をあおり、一気に半分程度飲み干した。
「くぅ~。うまい!」
かなり強いお酒のはずだが、こうも簡単に飲むとは、どれだけアルコールに強いのだろう。
心配になるので控えて欲しいのが心情。
「どうした? 飲まないの?」
「ああ、飲むよ」
苦みのあるビールをジョッキ1割程度飲む。
少し飲むだけでは苦みが強いが、ラガーはのどごしが命。
ある程度喉を通らないとおいしさが分からない。
枝豆を鞘から出して摘む。うん、美味しい。
彼女を見ると、彼女は僕を見つめていた。
「どうしたの?」
「幸せそうだな、って」
どういうことだろう?
「親父が言ってた。男は安い酒といい女があれば幸せだって。お前、幸せだろ?」
ランタンのような暖かく明るい笑顔の少女だ。
見た目は。
「確かにそうだ」
でも、僕は彼女が好きで、だから一緒に暮らす。
これで幸せではないと言ったら神様も怒る。
「なんせ、あたしがいるからな」
「違いない」
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