19 羊娘1


 彼女は服をあまり着たがらない。

 下着の上にTシャツか、チョッキを羽織る程度だ。

 だからといって、肌の露出が多い訳じゃない。

 そして彼女と同じ格好の人は何人でもいる。


 彼女達、ヒツジ人達は普通の仕事に就けない。

 大量の体毛故に、衛生観念が強い食品系はもちろん、接着剤を使う職場や、汗をかくような肉体労働の現場も働きにくい。

 だから彼らヒツジ人は自分たちで固まろうとする。

 どこのコミュニティに行っても、ヒツジ人は集まり、コミュニティを作るのだ。

 そして、仕事を作り、相互に助け合う。

 あまり地域に溶け込まない原因でもある。


 でも僕は彼女をコミュニティから連れ出してしまった。


 夜。

 僕は彼女を迎えに、近所の幼稚園に来た。

 幼児達は皆帰り、職員室にだけ明かりが付いている。

 勝手知ったるなんたるやで、僕は門から入り、職員室の戸を開けて彼女の名前を呼んだ。

 他の保育士と話をしていたらしい彼女は名前に反応し、耳をぴくりと動かして、こちらに振り返る。


「あ、迎えに来てくれたんですね」


 スカートとブラとエプロンしか身につけてない彼女はシルエットだけならば膨れている。

 毛を掻き分け抱きしめてみると実際はそのようなことはないと分かるけれど。


「じゃあ先輩、続きは明日で」


 彼女がそう言うと、人の良さそうな先輩保母さんは笑顔でさよならと彼女に言い、こちらに手を振ってくれた。


「じゃあ、帰ろうか」


 僕が彼女の手を取ると、彼女は大きく頷いてくれた。


 職員室の戸を閉めて、少し歩いたところで立ち止まり、彼女の頭を撫でた。


「よく頑張ったね」


 赤褐色の縮れ毛がふわふわしてて撫でにくい。

 白いもこもこ集団の中で一人だけ赤褐色のもこもこが目立ったことを覚えている。


「えへへ」


 目を細めて気持ちよさそうだ。

 何時までもこうしていたいが、僕にはちょっと肌寒い季節だ。

 早めに切り上げることにして彼女の頭から手を降ろす。


「あっ」


 彼女が寂しそうな声を上げる。

 僕も撫でて上げたい。

 でも続きは、


「帰ってから、もっとやって上げる」

「うん!」


 僕としても、もこもこで柔らかい彼女を抱きしめると、気持ちいいし、とても落ち着くのだ。

 いくらでも抱きしめていたい。


 これからの季節、夏に短くした毛がだんだんと長くなってきて、このもこもこもパワーアップしていく。

 そして、彼女を抱きしめることの中毒性が増すのだ。


 僕は帰りの道すがら、今日はどうやって愛でようかと悩むのだ。

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