18 コウモリ娘2


 彼女は歩けないが、足が不自由な訳では無い。

 家の中では足を使って移動する。

 もちろん、床を歩くわけじゃない。

 天井を張り巡らした、格子を掴んで移動するのだ。

 ただぶら下がるので邪魔にならないよう髪を短めにしている

 。髪型に自由度がないのではとも思ったが、彼女の種族は皆がそうしているので余り気にならないらしい。

 ただ、僕は彼女が街の女の子達の髪型を羨ましそうに見ていることを知っている。


 彼女と一緒に暮らし始めるとき、格子を取り付けるために天井が高めで広い部屋を借りたのだが、少々高すぎた気がする。

 ぶら下がったときの彼女の顔が、僕が立ったときの顔の位置にちょうど、なってしまっているのだ。


「どうしたの?」


 と、言うようなことを考えて居たら、後から彼女に話しかけられた。


 僕が振り返ると、彼女は器用に足から着地し、羽ばたきながら尻餅をつくように座る。

 羽ばたきによりゆっくりと腰を下ろすので怪我はしないし、痛くはない。


 僕が彼女に天井高すぎたかなと言うと、彼女は「そんなこと?」と言って跳ね上がり、羽ばたきながら僕の頭上を飛び越えた。

 そのまま天井の格子に足を引っ掛け、掴むと逆さにぶら下がった。


「ほら、立ってよ」


 彼女に言われるままに立ち上がると、すぐ目の前に彼女の顔があった。

 薄いけど柔らかい唇がすぐ目の前に。


「これはこれで便利だよ、ほら背伸びして」


 彼女は翼手で僕の顔をはさんで、上を向くように僕の顔を傾けた。

 そうして、僕は彼女の言いたいことを何となく察した。


「ああ、なるほど」


 少し微笑んで、彼女の言うとおりに少しだけ背伸びした。

 目を閉じて。


 唇が彼女に触れる。

 緩く開いた唇の隙間からチロチロと僕の唇を舐める何か。

 僕は彼女に答え、唇を少し開け、舌をちょこっとだけ出す。

 お互いの舌の腹がお互いを舐め合う。

 味覚は舌の上側に集中するという。

 ならばこれはお互いがお互いの味を同時に感じあう形になっているのか。


 そのままお互いの口内を楽しんでいたが、僕の足が耐えられなくなった。

 背伸びしつづけるのは大変だ。

 僕は彼女の手を撫でて握ると、彼女は僕の顔を離してくれた。

 僕は背伸びをやめる。

 お互いの先っぽは最後まで離れなかった。


「ね、便利でしょ?」


 僕は頷いて、彼女のおでこにキスをした。


「ひゃっ」


 可愛い悲鳴だ。

 少し高い。

 可聴域を超えているらしいから、全て聞こえないのは残念だ。


「便利だな。君の可愛いおでこにすぐキスできる」

「もー」


 文句を言いたげな口調だけれど、微笑んでいる。

 とても気分が良いときの笑顔だ。

 僕も彼女に微笑みかけて、もう一度目を瞑り、背伸びした。


 僕の唇に柔らかい唇が触れた。

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