15 トリケラトプス娘1


 彼女はキスを嫌がる。

 確かに頬が痛くなる。

 けれど、それがキスしない理由にはならないと思うのだ。


 両目の上と鼻の頭。

 三角顔人という名称の由来の通り、彼女の顔には角が生えている。


「やめろー」


 頬を赤くしながら彼女が照れる。

 その上がった口角は誤魔化せない。

 僕はそんな彼女の嬉しそうな顔を見ながら、眼窩の上から生えている角の内、右の方を撫でる。

 肌の張りとその奥にある骨の硬さを楽しんでいると、愛が高ぶったのか抱きついてきた。


「どーん」


 勿論鼻の上の割と鋭い角が僕に刺さらないよう顔を横に向けて。

 どーんとか良いながらも衝撃は感じない。

 柔らかくふわっと抱きしめてくるのだ。

 このいじらしさ、守りたい。


 ただ、目の上の角がだな。鎖骨に当たって痛い。

 そして邪魔。

 だが幸せな僕はその痛みすら幸せの証なのだ。

 大丈夫。

 やせ我慢じゃないよ。


 彼女の上眼窩角は先の方は感覚が殆ど無いらしいが、根元の方になるほどとても敏感だ。

 だからこうして撫でて、彼女の反応を楽しむのが僕の日課になっている。

 反面、鼻の頭にある鼻角は触らせてくれない。

 立派なのは上眼窩角のほうなのに、彼女たちの自慢ば鼻角のほうらしい。

 僕ら人間には分からない点なのが凄く残念だ。


 彼女が頬を僕の胸にすりつけたまま、上目使いで僕を見上げる。

 そういえば角を撫でる手が止まっていた。

 僕が微笑んで角撫でを再開すると、彼女も微笑んだ。けれど。


 唐突に、そろそろ僕らは先に進むべきだと思った。


 だから、僕は彼女の肩を強めに押す。

 僕の急な行動に、何も備えていなかった彼女は簡単に背中から倒れてしまう。

 座布団がそこにあることは確認済みだ。

 怪我はしないだろう。


「きゅっ」


 僕は彼女に多い被さり、前腕の小指側で彼女の肩口を押し、起き上がれないようにした。


「な、何をす」


 彼女が言いきる前に掌を彼女の頬に添え、キスをした。

 鼻角がとても邪魔なので、僕は首を50度以上傾けなければ行けなかったが、それでもキスの為には仕方が無い。

 この日のために首のトレーニングをして筋肉を柔らかくしてきたのだ。

 ひとつ残念なのは、彼女の目が見開いて、瞳孔がきゅっとすぼまって、という可愛いリアクションを流し目でしか見れないことだ。あと頬がやっぱり痛い。


 三角顔人の文化は勉強してある。

 鼻角を触ることは失礼に当たらない。

 恥ずかしい部位でもない。

 普段触らせてくれるのがその証拠。

 ならなぜキスを嫌がるのか。

 それはやっぱりこの痛みが原因なんだろう。


「痛くても良いよ」


 僕は大丈夫。

 痛みは我慢出来る。


「僕は痛みより、君の唇を愛せない事の方が、辛い」


 ……やめてくれよ。

 僕は君を泣かせるつもりなんかない。

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