16 トリケラトプス娘2


 竜人はそのルーツがよく分かっていないらしい。

 調べてもよく分からない。

 人間とはどう考えても違うのに、ハーフの例はいくらでもあるあたり適当だと思う。

 竜人に惚れる僕も大概適当なんじゃないか。


 ということを彼女に言ったら、


「バカじゃないの」


 と言われた。

 小難しいこと考えずにただ私を愛しなさい、という事だろう。


「こんな時に言うことじゃないでしょ」


 こんな時、とはどういう時だろう。

 恋人を後から抱きしめてシャツをめくり、お腹をナデナデしている時だろうか。

 彼女の鱗がないところの肌はとてもすべすべしていて肌触りが心地よいのだ。


 彼女に無理を言い、肩越しに後ろを見るような姿勢になって貰って顔が密着する程の距離から囁いている時だろうか。

 彼女の後頭部は装飾のフリルのような大きな出っ張りがある。

 そのせいで後から囁くときには自然と僕の耳の辺りと、彼女のフリルがくっついて血の流れのゴーという彼女の音が聞こえる。

 子守歌のように心地よい音だと思う。


 それともくちばしのように硬い唇を舌で舐めている時だろうか。

 彼女の歯は鋭いので、下手したら切ってしまう。

 代わりにしては味気ないが、唇を舐めるのもディープキスと同じぐらい趣があると思うんだがどうだろう?


「私に、聞か、ないで」


 おっと。喋るのに邪魔だったか。

 それもと照れているのだろうか。

 背中越しに鼓動が速くなっているのが分かる。

 頬は熱い。

 汗で肌がしっとりと湿り気を帯びてきている。

 体勢の関係上、顔を見て上げることは出来ないが、きっと照れているのだろう。


 しかし困った。

 彼女の鼓動が分かるということは僕の鼓動も伝わっているのだろう。

 好きな女の子に後から密着している緊張感は心臓の動きを否応無しに激しくする。

 つまり僕も彼女とおなじぐらいどきどきしているということだ。

 これは恥ずかしいぞ。


 こうなったら愛を囁くことにしよう。


「好きだよ」

「知ってる」


 知られてた。

 少し不機嫌な声で返されてしまった。


「その切れ長の瞳も、硬い唇も、鱗の滑らかさも、肌の艶やかさも、みんな好き」

「知ってる」


 これも知られてた。ならばコレならどうだろう。


「君の心も、身体も、みんな好きだ」

「……ばか」


 あ、また熱くなってきた。

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