14 兎娘2


 ウサギは多産な動物だ。

 被捕食者であるためぽんぽん食われる。

 食われるより多く産むことで生き残ってきた。

 これは立派な生存能力であるといえよう。


 ウサギの獣人も同じく多産だ。

 とはいえ人間であるためそこまで多産な訳では無い。

 人間より少し双子三つ子が多い程度だ。


 彼女達も双子の姉妹である。

 姉はアルビノで余り外には出られないが、妹は違う。

 姉と同じ雪のような真っ白な髪を持ち、黒い瞳は黒曜石のよう。


「あの人と一緒にしないで!」


 心からの嫌悪感がにじみ出るような拒絶だった。

 姉妹なんだし、と誘ったのがいけなかったようだ。

 彼女が姉を嫌っているのを失念していた。

 いや、姉だけではなく、家族や種族自体も嫌っているようだ。


 機嫌が良い時を狙おうと、大学のグランドで練習をしていた時を見計らって誘いに来たのだが、逆にいやがらせてしまったようだ。


「せっかく気持ちよく走っていたのにさ。センセーも人が悪いよ!」


 ウサギの獣人は活発だ。

 骨は脆くとも、やはり獣人の一種。

 本能に従って走ることを好む。

 運動は得意だし、性根は明るい。

 彼女は弱く、もう一つの本能である依存性が強く表に出てしまった姉と母を身近に見て育った。

 だからこそ、自分が彼女達と同じウサギの獣人だと言うことが嫌なのだろう。


「いや、だからな。たまには家族で食事でもしたらどうだというだけでな」


 彼女は今、家族から離れて生活している。

 離れて、とはいっても住処が違うだけで父からの仕送りは貰っている。

 バイトもせずに、ただ家族への反抗心から別居しているだけだ。

 だが幼稚と蔑むことは僕には出来ない。


「どうせあの女のために、でしょ」


 僕を睨み付ける彼女。

 目の端で光っているのは涙だろうか。


 実際、彼女の姉に依存され、それを由としているのだから。

 今もこうして彼女の姉が喜ぶであろうと、彼女を誘っているのだ。

 結果は惨憺たるものか。


「ごめん」

「そんな簡単に謝らないでよ。分かってるんだから」


 後を向いて肩越しに言う彼女はどこかエネルギーが足りない気がした。


 僕は諦め、踵を返す。

 また来るよ、と言おうとしたとき、後から強く衝撃を感じた。

 彼女が抱きついてきたのだと分かるのに少しだけ時間が掛かった。


 困惑しながらも彼女の名を呼ぶと、彼女は服の裾を強く握る事で返した。


「分かってるくせに。酷いよ」


 やはり、そうだったのだろう。

 なんとなく、想像はしていた。


「センセー。なんで姉さんなんかに優しくするの……。私だって、こんなに好きなのに」


 つまり、嫉妬だったのだ。

 別居の理由も、姉を嫌う理由も。


 気づけなかった僕は、きっと愚かなのだろう。

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