12 ドリアード娘2


 朝起きて彼女に会いに行くと、彼女の隣に誰かいた。


「あ、はろーだんなさまー」


「はろー」


 いつもの習慣で挨拶を返したが、疑問は晴れない。

 彼女によく似た女性だ。

 葉っぱで胸と腰から下を隠したドリアードスタイル。

 ちょうど彼女をそのまま成長させたような、美女だ。

 あと彼女より髪と葉の色が濃い。


「そちらの方は?」


 恐らくドリアードで彼女の関係者だとは思う。

 思うが、いつの間に我が家の庭に植わっているのだろうか。

 疑問は尽きない。


「わたしのーおねーさんですよー」


 姉。

 長い事一緒に過ごしてきたが、姉がいるとは初耳だ。


「はじめまーしてー。この子がーお世話にーなってますー」


 ゆっくりと間延びした声は彼女に似ていた。

 似てはいるが、抑揚の仕方が違っている。


「いもーとから話は聞いてますよー」


 彼女と同じく眩しい笑顔だ。


「ほんとーはーおかーさんも来たがってたんでーすがー」


 お姉さんは彼女よりゆっくり喋るようだ。

 常人には根気がいるだろうが、僕は慣れている。


「土地がー足りなくてーこれませんでしたー」


 他にも言っていたが、要するにドリアードは土の地面を必要とするので、そのスペースが足りなかったらしい。

 我が家の庭はまだ空いている、と思うが、これで足りないとはどれほど大きいのか。

 それとも1人に対しある程度の空間が必要なのか。

 どっちなのか聞きたかったがそれよりも本題が聞きたいので諦めることにした。


 僕の困惑を感じ取ったのか、姉のゆっくりしたおしゃべりを遮って彼女が聞く。


「なんでおねーさんきたのー?」


 太陽が陰った。すぐに太陽は陰っていないことに気付いた。

 太陽が陰ったのかと勘違いするほど、笑顔をやめた彼女の姉は冷たい。


「あなたに話があります」


 僕を月のような眼差しで見つめ、言った。

 ドリアードらしい、と思っていた間延びしたしゃべりをやめて、言ったのだ。


「おねーさん、どーしたの?」


 不安そうに彼女は僕と姉の顔を見比べる。

 僕は彼女の笑顔を曇らせる会話を早めに終わらせるために、彼女の姉眼差しを受け止め、先を促した。


「我々ドリアードと人間の時間は違う。分かるな」


 頷く。


「妹もお前を好いている。だがな、まだ若い。お前が死んだ後、お前との思い出だけで過ごすのは、余りにも哀れだ」


 言い分は分かる。けれど


「だからなんだと言うんだ。僕は彼女が好きだ。この気持ちは」

「おねーさんおねーさん」


 彼女が横から僕の言葉を遮った。


「いま大事な話をして」

「思い出だけじゃーないですよ」


 彼女は姉の言葉も遮った。


「これこれ」


 しゃがんで、彼女と姉の間の地面を指さして示す。

 そこにはぽっかりと芝生がなくなって土が露出しており、その中央に若い芽が顔を出していた。


「これはっ!」


 姉が芽をみて身体をのけぞらせた。

 何をそんなに驚いているのか、僕には分からない。


「ま、まさか」


 僕の大好きな太陽のような笑顔で、彼女は言った。


「だんなさまとのーあいのーけっしょーですー」


 …………は?

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