11 ドリアード娘1


 我が家の庭にはドリアードが埋まっている。

 ドリアードとは人のような樹のような不思議な人々だ。


 我が家のドリアードは女性らしい。

 胸は多少だけど膨らんでるし、女性らしい丸みを帯びたスタイルをしている。


「はろー」


 彼女が挨拶をしてきた。

 僕が小さい頃から共に育ち、共に大きくなった。

 とはいえ、彼女は僕の半分くらいの身長しかない。

 調べたところによると、ドリアードの寿命は長く、成長がかなりゆっくりらしい。

 成長がゆっくりで際限がないだけで、人間でいう大人ではあるようだ。


 胸や腰から下は葉っぱのブラやパンツで隠しているのはやはり恥ずかしいからなのだろうか。

 聞く勇気は僕にはない。


「はろー」


 僕は挨拶を返した。

 僕が小学生のころ、覚えたばかりの英語を使って挨拶したのが、今では習慣になっている。

 ただ彼女はどこから知ったのか分からないほど広範な知識を持っている。

 この間、遠い西の国で起きた革命をテレビより早く教えてくれた。

 本当にどうやって知ったのだろう?


 彼女は姉の様な存在だ。

 毎日とりとめもない会話をし、悩みを相談したりした。

 親にねだって携帯ゲーム機を二台買ってもらい、協力プレイをしたこともある。

 僕があげたプレゼントはみな、足元の防水バッグに詰めてある。

 雨が降れば犬小屋みたいな箱に入れるから濡れてしまうこともない。


 たまに、屋根がないことで彼女が自分とは違う存在なのだと言うことを突きつけられるようで嫌だ。

 だけど彼女は雨に濡れた方が良い。

 緑色の髪は水に濡れて瑞々しく元気になり、彼女自身も乾燥すると仰向けに倒れて苦しそうになる。


「きょーはどーしましたー?」


 ゆっくりと間延びした声。

 きっと生きる時間が違うのだろう。僕らの早口を彼女は聞き取れない。


 太陽の光を燦々と受けた眩しい笑顔は世界に向けた物だと思う。

 僕だけのものじゃない。


 両腕を太陽に向けて広げ、目を閉じて浴びる日光はご馳走なのだろう。

 僕には眩しいだけだ。


「今日は言いたいことがあってね」


 不幸になるだけだ。

 やめろ。

 僕の心が警鐘を鳴らす。

 でも、僕は止まれない。


「君に言いたいことがあるんだ」

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