09 オーク娘1


 オークというのは堕ちたエルフだ。

 大昔、神に近しい位置にいたエルフの一部が堕落し、変化した姿だと言われている。

 が、それも今は昔の話。

 現在は人類の一種族として確立している。

 一部ではオークという名称のマイナスイメージから緑人やグリーンズという名称を使おうという運動が起こっているらしい。


 元がエルフだったからか美形が多く、ただ一点肌が緑色という点でのみ人間とは違う。

 外見的にはそれだけだ。

 ただ、誘惑には非常に弱く、太った者が多くいるのも同じく特徴に挙げられるかもしれない。


 だから、例えば彼女の様な自制が出来るオークは非常に美しい。


 緑色の肌は若葉のように瑞々しく、艶やかで張りが良い。

 顔かたちはエルフに近く、ルビーのように赤い瞳だけが異質な妖しさを湛えている。

 実際は目の色素だけが薄いらしいのだが。


 ただ物凄く食べることが好きで、体型を維持するためにとても努力していることを僕は知っている。

 彼女もやはり、誘惑に弱いのだ。


 コンビニに行けばデザートの一つや二つ必ず買うし、夜になれば夜食を作り出す。

 それで現在のスタイルを維持しているのはもはや感動の領域だ。


「あなたも少し、お腹出てきたんじゃない?」


 彼女と似たような食生活をしてきたのだ。嫌な予感は当たるものである。


「ねえ。運動すれば少しやせるかも」


 彼女達は、見捨てられることに強い忌避感を示す。

 普段の行動から、大切な人とは極力共に過ごし、見捨てられないよう努力する。

 それは種族の由来から来る習性なのだろうか。


 今回の提案も、僕のため、というより自分が僕と共にいたいから、かもしれない。


 彼女の真意は恐らく、一緒にいたい、だ。


「分かった。一緒に運動しよう」


 目に見えて彼女の表情が緩む。

 常に自分を戒め厳しくいようとする彼女だが、僕はそんな彼女より今みたいに笑っていてくれたほうが嬉しい。


 ただ、同じメニューをこなすのは、少々辛いだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る