08 イエティ娘2
冬、彼女が最も適応する季節。
とはいえ寒さに耐える彼女の身体は、寒さが苦手だからこそ進化の果てにそうなった、とも言える。
つまり、彼女は暑ければ動きたくないし、寒ければ動きたくない。
怠惰には見えるが、仕方の無いことなのだ。
ただここで言う寒ければ、の寒さは雪山や北国の寒さであって、日本の、それも太平洋側における冬は十分に過ごしやすいのだが。
事実彼女のお陰で我が家における暖房は少しでいい。
毛布もなくて良いし、寒くなりすぎたらエアコンの暖房程度。
ストーブなんか必要無い。
彼女と抱き合えば、それで暖かいからだ。
ただ、暖かいからこそ、辛いことがある。
僕は彼女の上で目が覚める。
豊かな胸を枕に、布団は彼女の髪と腕。
それだけで暖かで心地よい寝床になる。
暖房の類は一切着けていないので、髪から足先がはみ出ると冷たい空気があたる。
僕は冷えた空気から避けて足先を彼女の毛布よりふわふわで暖かな髪の毛に埋めようと動かす。
「ひゃっ」
冷えた爪先が彼女の太股に当たってしまった。
「起きちゃった?」
「起きてました」
彼女の腕が僕のお腹をなでる。
僕はお返しに手を握ってあげた。
細く毛足の長い白い毛は空気に触れて冷たい。
けれど毛に埋もれた地肌近くは驚くほど暖かい。
てのひらはぷにぷにした柔らかい感触。
彼女の指先を例えるなら、犬か猫の肉球に近い。
部位的には同じところなのだから当然か。
僕も彼女も冬の朝は苦手だ。お互いに離したくないから。
「今日はお休みなのです」
予定は確かに入っていない。
けれど言うタイミングが今なら、彼女が望むのは分かっている。
「もう少し、このままでいようか」
「ええ。わかりました」
けして自分から主張はしない。
身体が大きくて力も強くて、なのに少し引いた感じがする。
そんな彼女が溜まらなく愛おしい。
僕は身をよじり、うつぶせになる。彼
女の大きな身体を抱きしめて、胸に顔を埋めるのだ。
彼女の落ち着いた、間隔の広い鼓動を聞く。
顔は見えないけれど、きっと彼女は微笑んでいるのだろう。
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