第2話 初恋が実らないってホントなんだね -4

おっさん、もといルドルフが俺を連れて来たのは、駐屯地から少し離れた広場だった。

周りは林に囲まれていて、とても静かな場所だ。

ルドルフは手に持っていた2本の剣のうちの1本を俺に投げて寄越した。

それは真剣らしくずっしりと重く、冷たい。

「それを両手にしっかり持って、それから両足をしっかり広げて腰をさげろ。」

俺はルドルフの指導のとおり、剣の両手に持って前に構えた。それから両足を踏ん張り、ルドルフを見据える。

「そうだ。なかなか筋がいいな。」

そう言うとルドルフは俺に向かっていきなり剣を振り下ろしてきた。

俺はその攻撃を咄嗟に体ごと避ける。

自分にそんな反射神経があるとは思わなかった俺は自分で自分の能力に驚いた。

体が軽い。

もう、何も怖くない!

そんな気分だった。

しかしルドルフには

「避けてはいかん。しっかりと相手の剣を受け止めろ」

と、叱られてしまった。

俺はルドルフに言われた通り、しっかりと彼の剣を受け止める。

それはずっしりと重く、俺に迫ってくる。

力では勝てない。

そこで俺はアニメや漫画でよく見る戦法に出る事にした。

俺は自分の剣の刃をルドルフ剣の真横に滑らせると、相手が怯んだ隙に、その刃先を彼の首筋に向けた。

その瞬間、ルドルフの額から冷や汗が滲み出るのが見えた。

俺は俺で心臓がバクバクしていた。

まさか、見よう見まねの破れかぶれ戦法がこうも上手く行くとは思わなかったのだ。

俺は剣をしまうとルドルフに頭を下げた。

「すみません。指導してもらっている身でいきなりこんな……」

するとルドルフは大声で笑い、俺の背中をバシバシと叩いた。

「いやいや、有能な新人が入ってきて第3部隊の隊長としては嬉しい限りだ」

「そんな。たまたまです」

「まあまあ、そう謙遜するな」

そんな感じで和やか話していた俺たちの元にユリアが慌てた様子で走ってきた。

「ここに居たのか、ルドルフ。探したぞ」

「どうしたユリア。まさか出動か?」

「そうだ。この近くの街が大量の大黒蝙蝠に襲われているらしい。それに伴って我が第2部隊とルドルフが率いる第3部隊に出動命令が出た」

出動。

その言葉を聞いて、俺は胸がドキドキしてくる。

まさか、俺は行かなくてもいいよな。

まだ、入隊して一ヶ月のペーペーだし。

なんて安心していたのもつかの間、ヒゲモジャのルドルフが余計な事を言い出した。

「なら、こいつも連れて行っていいか。大黒蝙蝠なら新人の初陣にはぴったりの相手だ」

するとユリアは眉を寄せて腕組みをする。

「確かに大黒蝙蝠は魔獣としては弱い相手だが、入隊して一ヶ月の新人が本番で使い物になるのか?」

その言葉に俺は「うん、うん」と心の中で頷く。

「それなら心配するな?こいつの実力は俺がさっきこの目で確かめた。それに遅かれ早かれいつかは出動する事になるんだ。それが今日でも構わないだろう」

おっさん!

余計な事言うな!

俺はまだ、心の準備が出来てない!

内心でハラハラする俺。

その目の前で何事かを考えているユリア。

彼女は考え事をする時に右手の指を顎先に当てるのが癖らしい。

そうして、しばらくしてからユリアは俺の顔を見て凛とした声で言った。

「分かった。彼も連れて行こう。その件については俺からアロイスに伝えておく」

ふえぇ〜

マジかよ〜

俺は思わず口から出そうになった情けない叫びを必死で押し殺した。

入って間もない新人を戦地に連れて行こうとするなんて、何て横暴な組織なんだー!

しかし、軍隊や討伐隊なんてものはそれが普通なのかもしれない。

何しろ率先力が欲しいもんね。

バイトにしても、会社にしてもそれは同じだ。

俺は腹を括り、ルドルフ率いる第3部隊の隊員として魔獣討伐の現場に向かう事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る