第2話 初恋が実らないってホントなんだね -3

俺は心が折れた。

ポッキリ(心が折れる音)

今すぐにここから逃げてやる。

何としてでも逃げてやるぞ!


ユリアの鬼の特訓からようやく解放され、寝室として使用されている大部屋の一角にある寝袋に倒れみ、俺はそう決意した。

しかし、体はもう指一本動かせないくら疲れて果てている。

逃げるにしても、これじゃあ逃げられないじゃなーい!(なぜかオカマ言葉)

疲れている。

完全に。

俺は疲労した体と思考を休ませるため、取り敢えず、一寝入りする事にした。

しかし、それが間違いだったと翌朝後悔する事になる。


翌日の早朝、寝袋で寝ていた俺は真横に何かの気配がして、うっすらと目を覚ました。

野良猫が何かが入り込んだのか?

俺は寝ぼけた頭でぼんやりと考えていた。

すると、俺の耳元で甘い声が響く。

「早く起きて、オリヴァー」

その声に聞き覚えがあった俺は、驚いてガバっと飛び起きた。

声のした方を見ると、長い髪をポニーテールに結い、白い半袖のシャツに革の短パン姿のユリアが俺の隣に横たわっていた。

「やっと起きたのね。オリヴァー。」

「ユリア……さん?」

昨夜とは打って変わったユリアの様子に俺は戸惑いを隠せない。

ユリアは徐に体を起こすと、窓の外を見上げた。

それから俺の耳元に唇を寄せてくる。

「今日もいい天気よ。一緒にトレーニング、頑張りましょうね!」

そう優しく囁かれて、折れていたはずの俺の心はあっという間に回復する。

「はい!今日もよろしくお願いします!」

気がつくと俺は元気にそう応えていた。


その日の筋トレメニューは駐屯地の端ある崩れた砦の階段をウサギ跳び往復100回と腹筋500回と腕立て伏せ1000回だった。

ウサギ跳びを半分終えたところで俺は既に死にそうだったが、少しでも休めばユリアの怒号が飛んでくる。

俺は死にかけながら、砦の階段の上に立っているユリアの朝日に照らされた白く美しい太ももを励みに頑張った。

ウサギ跳びが終わっ時点で俺はもう、膝がガクガクして立てない状態だったのだが、鬼軍曹ユリアは休む事など許してはくれなかった。

「休んでいる暇など、ないぞ。次は腹筋500回だ」

そう言うとユリアはその場で横になり、何食わぬ顔で腹筋を始めた。

俺もそれに続いて腹筋をする。

しかし、俺が500回の半分もいかない内にユリアは腹筋500を終えてしまった。

ものすごいスピードである。

しかも、ユリアは腹筋500回を終えた後も疲れた様子もなく涼しい顔をしている。

俺なんか、200回超えたあたりでもうヒィヒィ言っているのに。

そんな俺をユリアは見下ろして言う。

「何だまだ終わっていないのか。もっとスピードを上げろ!」

「は、はいぃ!」

今朝の甘いく可愛らしい姿はどこへやら、トレーニング中のユリアは厳しい。

厳しすぎる!


そうしてその日の夜も今夜こそここから逃げ出してやると固く心に誓うのだが、次の日が来るとまたユリアに優しく起こされ、やる気を取り戻し、これが飴と鞭と言うやつなのか!と思いつつ、鬼軍曹と化したユリアにしこたましごかれると言う日々を繰り返した。


そうして一ヶ月も経つと俺の体に変化が起こった。

まず腹筋が割れてる。

あのまな板の様に凹凸の無かった腹筋が、蟹腹の様に割れているのである。

感動だった。

腕なんて筋肉でカチカチだし、毎日の様に日に当たった肌はいい感じに小麦色に焼けていた。

実に感無量だ。

それまでもたるんだ体を鍛えるべく筋トレに臨んだものの、3日も持たなかったこの俺が、ここまで頑張れたなんて。

これも天使の皮を被った小悪魔ユリア軍曹のおかげだ。

それにしても不思議なのが、この一ヶ月ユリアは俺と同じ筋トレメニューをこなしていたにも関わらず、ユリアの体型は全く変わらない。

相変わらず肌の色は白いし、腕も足もしなやかでほっそりとしている。

あり得ない。

いくら女の子でもあれだけの筋トレをすれば筋肉の一つや二つ付くはずだ。

やはり彼女は人間ではないのか。

天使か?

天使なのか?

それとも妖精?

俺がそんな馬鹿な事を考えていると、隊員の一人が声をかけきた。

彼はここに来た当初俺を「ひ弱」だと揶揄したヒゲモジャのおっさんだった。

彼は言う。

「あのユリアの特訓に一ヶ月耐えたんだって?凄いじゃないか。どれ、今度は俺が剣の稽古でもしてやろう」

そうしておっさんは俺の肩を抱き、どこかに連れて行こうとする。

「い、今からですか?」

「何か、都合が悪いか?」

そう聞かれると、特に都合が悪い事は別にない。

ユリアとの筋トレは午前中で終わってしまったし、午後から何をしようか迷っていたところだった。

「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします」

俺がそう答えるとヒゲモジャのおっさん(

ルドルフと言うらしい)は白い歯を見せてニッカリと笑った。

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