第2話 初恋が実らないってホントなんだね -1

今日は雲ひとつない晴天。


しかし、俺の心は曇天だ。


そんな俺の隣ではピンクのロリータ衣装を着た髪の長い美少女が可憐に踊っている。


ステージの上で歌い踊る彼女にファンの男達が熱い声援を送る

その様子を俺は冷めた目で眺めていた。


君たちが熱狂しているその美少女アイドルはホントは男なんですよー!


俺は今すぐ声を大にして叫びたい気分だった。

しかし、そんな事をすれば、俺の秘密も街中にバラされてしまう。

つまり俺のアソコが残念な事が俺に熱を上げている女の子達にも知られてしまうのだ。

ああ、想像しただけでも恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分になる。


「みんなー。今日も私たちの事を応援してくれて、ありがとうー」

最初の一曲を歌い終わり、美少女アイドルユリアがその可愛らしい声を精一杯響かせた。

俺もその声に合わせてファンの女の子達に目配せする。

するとファンの女の子達は

「きゃー❤︎」

と歓声を上げてくれる。

いい。

実に快感だ。

その声に俺はいつも元気を貰っていた。


それにしても。

俺は隣に立つユリアに視線を移した。

毎度の事ながら、彼女。

いや、彼と言うべきか?

ユリアの変わり身にはいつも驚かされる。

普段は男まさりなユリアだが、ファンを

前にすると可憐で儚く、けれどちょっと小悪魔な少女を演じて見せるのだ。


昨夜は人の欠点を餌に俺を脅したクセに!

なんてあざとい奴なんだ!


俺はファンサービスをするユリアを横目で眺めながら、彼女。いや、彼との出会いを思い出していた。


それは、まだ異世界にやってきたばかりで、途方にくれていた俺をアロイスが拾ってくれて、討伐隊の駐屯地に初めて足を踏み入れた夜の事だった。

駐屯地にいるのは屈強なおっさんと兄ちゃんとおっさんばかりだった。

それは別にいい。

むさ苦しいのには慣れている。

何せ俺は中学、高校と男子校に通っていたのだ。

男ばかりの世界にはむしろ安堵すら覚える。

いや、別に変な意味ではなく。

隊員達は俺と一緒にいたアロイスの姿を見るなり声をかけてきた。

「リーダー。お疲れ様です」

隊員達はそう挨拶しながら一斉にアロイスを

取り囲こむ。

その様子は側から見ると屈強なヤクザ達に絡まれているひ弱な青年の図としか思えなかった。

しかし、男達は今にもアロイスの前に平伏さんばかりである。

一体このアロイスと言う青年は何者なんだ?

俺は首を傾げた。

アロイスを囲んで盛り上がる隊員達に彼は優しく微笑みかける。

「みんな、お疲れ様。今日は新しい隊員を連れて来たよ」

そう言ってアロイスは俺の背中を押した。

「新隊員のオリヴァーだ。みんな仲良くしてやってくれ」

ちなみに『オリヴァー』とはアロイスに名前を聞かれた時に咄嗟に答えたこの世界での俺の名前だ。

日本にいた頃はゲームでよくこの名前を使っていたものだ。

ついでに生い立ちについては、名前以外何も覚えていない事にしておいた。

アロイスに紹介された俺を屈強な隊員達はがマジマジと眺めてくる。

はっきり言って今すぐにその場から走り去りたいほど、居心地が悪かった。

「新隊員のなのは分かりましたが、何だかひ弱そうな奴ですね」

鬱蒼とヒゲを生やした筋肉隆々のおっさんが言った。

そりゃ、あんたと比べたら俺なんか、風が吹いたら吹き飛ばされそうなくらい、ひ弱に見えるでしょうよ!

俺は心の中で突っ込んだ。

あくまで心の中でだ。

こんな屈強なおっさんに堂々と口に出して突っ込める程、俺は勇者ではなかった。

「ひ弱なのは鍛えればいいさ。なあ、ユリア」

アロイスはそう言って俺の隣を見た。

そこにはいつの間にか小柄な人物がアロイスと向かい合って立っていた。

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