第1話 転機 -3
その夜。
俺はステージ後のリハーサルを終え、ファンから頂いたお手紙を読んでから、街の宿屋に戻った。
俺たちのバックで演奏をしてくれていた隊員たちやステージを切り盛りしてくれていた隊員たちは既に宿屋に戻っで休んでいる様だ。
宿屋の中はシンと静まり返り、外で鳴いている虫の音が聞こえるばかりだった。
俺は宿屋の自室に帰り、今日受け取ったファンレターを机の上に置いた。
それからカバンの中に入っている着替えを小脇に抱え、宿屋の温泉に向かう。
それにしても今日は充実した日だった。
アイドルのステージに加え討伐隊としての任務もこなし、街の人々の支持を得られた。
日本に住んでいた時は、何となく学校に行って、帰って来たら、母ちゃんの作った晩飯を食って、スマホでゲームをしての寝る。のローテーションだったのに。
この世界に来てからは、隊員としての仕事は勿論の事、アイドルとしての活動が忙しく暇だとボヤいている隙がない。
俺は今確かにここで生きているのだと実感する毎日を送っている。
まさに自己顕示欲が満たされまくっているのだ。
俺はご機嫌で鼻歌など歌いながら、脱衣所で服を脱ぎ、温泉に続く扉を開いた。
すると、白い湯気を纏った人影が俺の前に立ち塞がる。
この時間はもう誰も温泉にはいないだろうと油断していた俺は大いに驚いた。
「おお、びっくりした。まだ入ってる奴がいたのか」
俺は相手が屈強なおっさん隊員の1人だと思い、何気なく声をかけた。
しかし、よく見ると相手は随分と背が低かった。
俺はよく目を凝らして相手の姿を確認する。
すると、目の前の相手は桃色の髪を頭上に結っている様だった。
さらに目を凝らすと、相手は少女の様に色白で華奢な体つきをしているのが分かった。
俺は思わず相手の名前を叫んでいた。
「ユリア!どうしてここに?」
するとユリアは訝しげに俺を見る。
「どうしてって、温泉に入ってただけだけど?」
「だってここは男湯」
そうだユリアは女の子なのだ。
俺はとっさに両目を腕で隠した。
しかし、好奇心には勝てず、両目を塞いだふりをして、ユリアの体をこっそりと覗き見る。
白い体に華奢な肩が何とも愛らしい。さらに下に視界をやると何とも控えめな両胸が見えた。
実にいい。
俺は巨乳が好きだが、貧乳の女の子も大好きだ。
この辺りで俺は鼻の奥がムズムズするのを感じたがグッと堪えた。
そして、悪いとは思ったが更にその下に向かって目を凝らす。
そこはあれだ。
裸体を隠そうともせず、俺の前に無防備に立っている彼女がいけないのだ。
そして、おずおずと彼女の股間を覗き見た俺は息を飲んだ。
それは神秘の場所を覗き見て、声を失うほど感動したと言う訳ではナイ。
付いている。
控えめではあるが、少女にはないはずのアレが確かに付いている。
次の瞬間、俺は情け無い悲鳴を上げていた。
「ぎゃわー!お、男ぉー‼︎」
慌てふためく俺とは正反対にユリアは冷静だった。
無防備な俺の股間を見て一言
「ちっさ!」
と言い放った。
何が小さいのかは察して欲しい。
「煩いな。お前だって人の事言えないだろ?!」
俺は股間を隠しながら涙目で言い返した。
「俺はいいの。このキャラで大きくても不自然だろ」
そう飄々と言い退けて、ユリアは脱衣所に入り、白いシャツを羽織った。
それにしても、他の隊員にも必死に隠していた俺の秘密がこんなところで、よりにも寄ってユリアにバレてしまうとは……
だが、それはユリアも同じだったらしい。
「オリヴァー」
ユリアが俺を振り返る。
「もし俺が男だって事、他の隊員にバラしたらどうなるか分かってるよな」
「一体どうなるんだ?」
「お前のアソコが残念だってコト、ビラにして町中にばら撒いてやる!」
「やめろぉー‼︎」
ああ、神様、仏様、巨乳の女神様。
何故、顔だけでなく、アソコもイケメンにしてくれなかったんだ?
そうじゃなくて。
ユリアが男だと知ったその日その夜、俺の初恋は儚くも虚しく散って行った……
あとがき
冴えない高校生、哲也くんの第2の人生が始まります。
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