第1話 転機 -2

盛り上がるステージ。

盛り上がる観客。

しかし、突然ファン達の歓声が悲鳴に変わる。

突如パニックになり逃げ惑う人々。

飛び交う泣き声

そんな観客達の後方に目をやると、黒い大きな虎がこちらに向かって突進して来ていた。

魔獣だ!

この世界には魔獣という人々の生活を脅かす獣が存在する。

彼らは時間も場所も考えず突然現れて、人々の命や作物を奪っていくのだ。

魔獣の姿を確認すると、ユリアがこちらを見て

「オリヴァー」

と俺の名前を呼んだ。

俺はその声に頷いて応えると、腰に光るクリスタルに右手を翳した。

そして

「リヒト・シュベルト」

と唱えると金に光る剣を召喚する。

ユリアも同じく

「リヒト・ズィッヒエル」

と唱えチョーカーに両手を翳す。

すると銀に輝く大鎌が召喚される。


俺たちは避難する人々の頭上を飛び越えて、

魔獣に攻撃を仕掛けた。

まず最初に俺が剣で魔獣の両目を斬りつけ

、視界を奪う。

そこから流れるような動きで俺の背中を飛び越え、ユリアが大鎌を敵に向かって振り下ろした。

魔獣の身体はユリアの攻撃で真っ二つになり、やがて黒い灰になって消えて行った。


それを見た街の人々は歓声を上げて手を叩いた。

「やっぱり、オリヴァーとユリアは最高のコンビだぜ」

「流石、魔獣討伐隊『ヴァイス・ティーガー』のエース!」

そうなのだ。

俺たちはアイドルでありながら、魔獣の討伐を目的とした組織『ヴァイス・ティーガー』の隊員でもあるのだ。


事の始まりは、組織のリーダーであるアロイスという青年の一言だった。

彼は転生を果たし、着の身着のままで立ち尽くしていた俺を組織にスカウトした張本人でもある。

その時も非常に軽いノリで

「そこの背の高い黒髪の君。僕が指揮する組織の隊員にならなーい?」

と言って来たのである。

アロイスは色白で銀髪といった見た目の聡明さ、かつ儚さとは裏腹に常に思い付きで生きている軽い男だった。

そんな彼が放った鶴の一声が

「組織に花を持たせたい」

だった。

確かに隊員は紅一点のユリア意外、屈強でむさ苦しい男ばかりで、お世話にも花があるとは言い難かった。

そのせいか、魔獣を討伐して人々に感謝される事はあっても、親しげに話しかけられる事は珍しかったのは確かである。

「もっと人々に慕われる組織でありたい」

それがアロイスの主張だった。

そんなリーダーの思いつきを現実にするべく、俺は『アイドル』と言う存在を提示した。

つまりは、見た目が華やかな隊員に歌って踊らせて見てはどうかと提案したのだ。

その案にアロイスはすぐに食いついてきた。

早速、組織内でオーディションなる物を行い、そこで選抜されたのが、俺とユリアだったのだ。

勿論、最初から順風満帆だった訳ではない。

遠征先の街で、2人して歌って踊るものの、所詮は素人。

芸事で言えば、旅芸人やジプシーの方が技術は上に決まっている。

素人の俺たちが路上で歌って踊っていても白い目で見られるのが、関の山だ。

最初はそれも仕方ないと俺は諦め半分だった。

しかし、ユリアの持って生まれた美貌とあざとさが功を奏し、男性陣を中心に予想よりも早く俺たちのファンは鰻上りに増えていった。


そうしてアロイスの思惑通り、花を得た討伐隊は人々の指示と協力を得られる様になり、

仕事もし易くなったのであった。

めでたし、めでたし。

と言う訳にもいかず、それを面白く思わない者もこの世界にいるにはいる訳で。


それはまた別の話で語りたいと思う。

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