第5話
シンは杖にとても困っていた。シンの濃く純度の高い魔力は高級品の杖でもなかなか受け止めきれず、長くても一週間で壊れてしまうのだ。シンはこの前空中浮遊学園にドラゼウスの牙でできたアーロンの杖をくれとお願いしに行ったのだが、もちろん断られてしまった。
「もらえないなら仕方ない。自分で手に入れるしかないか。もう少し耐えてくれよッ」
杖に強くお願いしてからシンは杖を空高く掲げた。
「『出でよ』ッ!!」
呪文ですらないたった一言の言葉で空に大きな魔法陣が展開。そして、
「グルアァァァァァアアアアアアアア!!!」
なんとその魔法陣の中らドラゼウスが姿を現した。ドラゼウスはアーロンとの戦いの後、アーロンに飛ばされた宇宙の果てで体を休めていたのだが、シンは無理矢理引きずり出したのだ。
「僕と戦えドラゼウス!」
ドラゼウスはアーロンへの恨みをシンで晴らそうと全力で襲いかかる。大きな翼を目一杯広げ体の中心に圧倒的な熱量を放つ光の球を作り出した。それを尾で一閃。割れた玉の中からマグマが滝のように降ってきた。シンは動揺せず落ち着いた声で呪文を放った。
「『禁忌・静止の狭間』」
暗緑色の不気味な魔法陣が展開。素粒子レベルの物理運動を完全停止させる特殊な結界がマグマの熱を打ち消し、動きを止めた。あのアーロンを牙一本という代償のみで返り討ちにした神龍ドラゼウス。シンは対抗するため、早々に奥の手を使ったのだ。代々、第九階梯術師以上に継承される最古にして至高の魔道書「創世の彼方」。その最終章に載る最も強力ないくつかの神杖術を「禁忌」と呼ぶのだ。アーロンが書き上げたとされるこの魔道書は悪用されたりしなようにアーロン自身が暗号を使って書いていたのだ。アーロンの死から二百年経った今でもそのほとんどが解読不能だったのだが、シンは天賦の才能で独自の魔術言語を編み出し、創世の彼方を完全解読したのだ。それが。シンがまだ子供ながら第六階梯に上り詰めることのできた所以。しかし、相手は神龍。一筋縄ではいかない。ドラゼウスはシンが魔術を起動していた間に、息吹をためていたのだ。
「カァーーーーーーーーーッ」
シンはとっさに飛び退く。純白の熱線が一瞬前までシンがいた場所を抉った。
「ちぃっ『雷神の鉄槌』!」
シン負けじと神話の中の神が放ったような雷をドラゼウスに向かって撃つ。二つの力は拮抗し、爆発した。煙が立ち込める中、ドラゼウスはシンが死んだと思って飛び去ろうとした。すると静寂の中、力強く呪文が響いた。
「『禁忌・滅亡の煌き』」
創世の彼方に載る、煌きシリーズの最上位呪文が起動。シンの杖の先から黒い風が吹き出した。その風は周りの大地や岩を削り、消し去りながら唸りをあげドラゼウスに迫る。ドラゼウスは避けきれず尾の下半分が消滅した。
「グオォォォォオオオオオオオオオオ!!」
怒ったドラゼウスは仕返しとばかりに幾千もの雷をシンに向け打ってきた。シンは迎え撃つ。
「『禁忌・蒼雷獣の狂乱』」
青く輝く高エネルギーの雷が、ドラゼウスの放った雷を打ち消していく。雷で空が白熱する中、
「同時起動!『滾れ我が魂、天から降る炎の嵐よ遍く輝きを統べ、消し飛ばせ』ッ!!」
杖の先に新たな魔法陣が展開。同時にシンの足元に展開した魔法陣から吹き上がる炎がシンを包み込む。炎が渦巻いて次の瞬間、炎が消し飛んだ。中から出てきたのは、左腕が赤々と燃え上がるシンだった。シンは左手で杖を持ち直し、雷を撃ち続けたまま力強く一閃。雷と混ざり合い、青く輝いた炎がドラゼウスに迫る。
「オリジナル禁忌術ッ!『斬神の炎雷』ィィイイイ!!」
「グロァァァァァァァァアアアア!?」
ドラゼウスが悲鳴をあげる。
「これで最後だッ!『禁忌・虚空の誘惑』!」
創世の彼方の最後を飾る大魔術をシンは完成させた。空間が裂け、ドラゼウスを呑み込んでゆく。
「牙を僕に寄越せッ!!『風神の破壊剣』」
ドラゼウスの一番立派な牙をシンは切断した。ドラゼウスは抗う気も失せたのか、無駄な抵抗をせず、異次元に呑み込まれていった。
ーーーアーロンを超える才がここに開花した。
抗え運命に、捧げよ魂を 霧空 春馬 @0102iwai
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