第2話

 たとえどれだけ離れていようが魔術では一瞬で飛んでこれる。しかし次元が違うと話は別だ。科学でも魔術でもこの世に幾つの次元が存在しているのかわかっていない。だから互いに行き来することは不可能なのだが、何かしらのもので次元同士は繋がっている。だから、

「空間の裂け目を感知!衝撃、来ますーーーッ!」

次の瞬間、星が一つ消し飛んだ。玄山の放った一撃が次元を超えて伝わって来たのだ。

「最近多いな。今回もワープギリギリだったぜ」

ここは玄山たちがいるところとは別の次元にある一人目の弟子アーロンが飛ばされた世界。アポカリプスでたまたま「国ごと」別次元に送られたアーロンはすぐに転移術を起動。最寄りのハビタブルゾーンに位置する星に国を合体させた。その星には龍などの未知の生物が住んでいたため、材料に恵まれており「神杖術」はとても発展した。現在は古代から生きる龍の牙が最も魔力伝導率が良いとされ一級品となっている。その中でも、まるで夜空を閉じ込めたような深い紺瑠璃の色をした杖がある。それは四枚の大陸のような大きな翼をもち、魔術の基本属性「火」「水」「風」「土」「闇」「光」を自在に操る神龍「ドラゼウス」の牙だ。アーロンは星に降り立った直後、この龍に襲われた。激しい戦いの末一本の牙を奪った。アーロンはその牙で起動した渾身の大魔術で自らの命と引き換えにドラゼウスを追い払った。人々はその牙をアーロンの専属杖職人に最強最高の杖にしてもらい、その杖を崇めた。

 アーロンが亡くなって一時期衰退してしまった神杖術も今は昔のような栄えを見せており、アーロンが築いたトリスタン帝国も発展している。

 トリスタン帝国には「グレートアルビレオアカデミー」、「コーホテク魔術学院島」、「アルティメッドインテリジェンスダークフレイムマスターズ育成空中浮遊魔術アカデミー☆」の三つの大きな神杖術学院がある。

 グレートアルビレオアカデミーは国内最大の規模を誇る国立の神杖術学院だ。最新の研究施設や選りすぐられた高階梯の講師たちがいるが、生徒の入学試験がありえないほど厳しく年々入学志願者が減っているという悲しい化物学校だ。

 コーホテク魔術学院島は島を丸ごと学校とし、本土に影響を及ぼさず高度な教育と研究ができるマンモス校だ。

 アルティメッドインテリジェンスダークフレイムマスターズ育成空中浮遊魔術アカデミー☆は校長が代々重度の厨二病で初代校長のつけた長く痛々しい学校名が原因で近づきたくもない人々がほとんどだ。しかしこの学校にはドラゼウスの牙でできたアーロンの杖が保管されている。そしてその杖を媒体することで「空中浮遊学園」として成り立っている。

 三つの学校は年に一度その年の最優秀生徒を育てた学校を決めることになっている。それが「覇杖祭」だ。覇杖祭では知識、杖の使い方、術の操り方など様々な観点が一度にわかる「決闘」で最優秀生徒を決める。



 アルビレオアカデミーには覇杖祭の強化期間というものがある。

「どうせ今年もうちの学校が勝つでしょ」

「今年勝てば二百年連続勝利〜」

「まあ、あの人に勝てる人なんているわけないもんな」

国内最高と掲げるアルビレオアカデミーは負けるわけにはいかない。

「案ずるな。今年も私が最優秀生徒なのだから」

彼はレグルス・アルビレオ。この学校の学長の息子で、高飛車な態度が鼻につく男だ。しかしその自信は偽物などではなく、トップの成績からくるものである。

 この国には術師階梯という資格がある。第十階梯の「術皇」と、第九階梯の「魔術四天」を合わせた五人をトップとし、第一階梯が一番下である。上の階梯になるには厳しい審査を通過し、功績を上げなければならない。第四階梯以上は一流、第六階梯以上は超トッププロとされる。そしてなんとレグルスは第三階梯。学生じゃ数えるほどもいない優秀な生徒なのだ。

「でもさー、今年この学校に歴代最高得点で入学したやついたよな」

「満点だったらしいよ。しかも最年少。その後のテストも全て満点で超優秀だとか」

「いやそれ優秀とかのレベル余裕で超えてるだろ!」

『職員より生徒へ。至急全校生徒、集会場に集まるように。繰り返すー』

「なんだろう?」

「覇杖祭の代表選手の発表じゃね?」

集会場に生徒が全員集まったことを確認すると、学長は口を開いた。

「これより覇杖祭の代表選手十名を発表します」

覇杖祭はそれぞれの学校が選出した十名の代表選手の総当たり戦。それぞれの学校によって十名を選ぶ基準は様々だ。

「十番、イーパ・イロット。九番、ラン・ワーカー。八番、マカ・エイルン」

「うわっみんな貯蔵魔力量、千越えなんだけど」

「資料の間違いじゃないよな......?人間やめたんだな」

貯蔵魔力量とは体の中に貯めることのできる魔力の最大値のこと。多ければ多いほど扱える術の数が増加する。平均的な術師の魔力量は六百〜七百。学生の身で大きく越えてしまっている。

「四番ハインケル・ランス。三番、アルフ・ランス」

「出た!ランス兄弟。あの人たちやばいよな。口癖は『サンドバッグにしてきたキリッ』」

「弟の魔術特性がおかしいんだよ。普通に生きてたら「魔の右手」なんていう体質にならないだろ」

人には生まれながらにして持っている魔術特性というものがある。体の体質のことで、炎熱系の魔術をわずかにアシストしたりなどのものなのだが、「魔の右手」は違う。一つの時代に一人だけ現れ、人から人へランダムに受け継がれる。一説によると前の使用者が死んだ瞬間に生まれたものが引き継ぐと言われているがよくわかっていない。歴史上の有名な神杖術師たちが持っていたとされるすごい体質だ。そして人が扱うのが最も難しい闇系の魔術を無条件起動。使用する魔力も他の人の半分で大丈夫というもの。闇系魔術は起動に必要な魔力が他の属性の魔術の三倍〜五倍と燃費が悪い。闇系魔術を起動して魔力枯渇で死亡するというのはよくある話。

「二番......。レグルス・アルビレオ」

「「「「............は?」」」」

全校生徒の声が重なった。何年も頂点に君臨し続け、最優秀生徒として輝いてきたレグルス。

「彼を超える人なんて......。」

「一番、シン・エア。えーではエア君、こちらに」

そう言われて出てきたのは茶色い髪が特徴的な少年。歳はおそらく十歳前後だろうか。

「彼は今年この学院に入学してきたばかりですが、入学時に提出した論文で第六階梯術師として昇格した天才です。入学試験を含めた全ての筆記及び実技試験で満点。彼より最優秀生徒にふさわしい者などいないでしょう。」

もはや誰も声を上げることはできなかったが、

「......るな。ーーーッふざけるなぁ!!」

レグルスは急に声を荒げ、腰の杖を抜いた。細かい装飾が施され、すらりと伸びる白く美しい杖は昨年の最優秀生徒にふさわしい一品。

「『炎帝の吹雪』!」

レグルスの放った呪文に合わせ、杖の先端に二つの魔法陣が浮かび上がる。

「「「「複数同時起動!?」」」」

周りにいるものたちが目を剥く。レグルスが優秀たる所以、「同時起動」だ。魔術は起動、そして制御に魔力だけでなく体力も消耗する。複数の術を同時に起動するというのは体に相当な負荷がかかり、自爆してしまう恐れがあるのだ。レグルスの超希少な魔術特性「双頭の蛇帝」はその負荷を緩和、起動時間の短縮を支援するもの。紅く燃え上がる炎が、大気を凍らせる多くの氷の礫がシンに迫る。

「はぁ」

シンはため息をつき右手を軽く振るった。するとたったそれだけの動きでレグルスの術は打ち消されてしまった。

「何!?『剣士の演舞』!『舞え』『舞え』『舞え』『舞え』『舞え』『舞え』ぇぇぇええええ!」

あっさり呪文を防がれたレグルスは躍起になってひたすらに剣を振るう。その度に真空の刃がシンに迫るが、シンも同じように杖を振るい呪文を打ち消していく。目の前で繰り広げられる二人の高度な戦いに、そしてあのレグルスの攻撃が全く通じないという光景に全校生徒は理解が追いついていないようだ。

「もうやめるんだ!」

学長はついに声を上げる。シンはその言葉を待ちわびたかのように笑顔になると、杖をくるりと回した。するとレグルスの放った風の刃が急に方向を変え、レグルスの肌を傷つけた。

「ありがとうシン君。あのままではレグルスは危険だったからな。」

「いえ。自分の身を守ったまでです」

学長は自分の言葉に従い早々に決着をつけてくれたシンに感謝の気持ちを述べた。レグルスは先ほどの攻撃で気を失ったようだ。

「とまぁ、トラブルはあったが代表選手については以上だ。それでは解散」

全校は集会場から解散した。

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