お年玉

「あけましておめでとうございます。ただいま、アンケートを実施しております」


 お年玉をもらえないから、風見は正月も働いている。

 正月のご飯を豪華にするには、ちょうどいい取材依頼が舞い込んだ。

 田舎のショッピングモールでお年玉の使いみちを調べる。実に単純な仕事内容だ。

 楽な仕事だと思っていたものの、子供に直接取材を行うのは危険が伴う。通報されれば逮捕されかねない状況を考えれば、報酬が高いとも安いともいえない。


「あけましておめでとうございます。アンケートにお答えいただいたお子様には、クーポンを配布しています」

「ねぇねぇ、お兄さん。クーポンもらえるの?」


 フリーペーパーのクーポンに、釣られるバカもいる。男の子が話しかけてきて、一緒にいた女の子二人も渋々、風見に近づいてくる。


「アンケートに答えてくれたら、お渡しします。いま、お年玉の使いみちをきいてるんだけど。みんなは、お年玉をもらったかな?」

「もらったよ。コトリは最初もらえなくて、ぐずって泣きまくってたんだよな」

「うるさいわね。勝手にアタシのことを話さないでよ」

 男の子の口の軽さに、三人の中で一番大人びた女の子が文句をいう。

「コトリちゃんのいうとおりだよ。余計なことは言わないの」

 もうひとりのボブカットの女の子も男の子を批判する。すると、男の子は目に見えてへこむ。批判してくる人によって、そこまで反応が違うかとツッコミたくなる衝動を風見はおさえこんだ。それよりも、助け舟を出しつつ、仕事を完遂すべきだ。


「どうやら、みんなお年玉はもらったみたいだね。何度もたずねてるけど、なにかを買うのかな? これまでの回答だと、ゲームや漫画とかが多かったんだけど」


「遥の欲しいものを買うつもりです」

 メモメモ。遥のほしいもの、と。一応、回答をそのまま書き留めておく。遥って誰だろう。

「ええっ。そんなのいいよ。自分の好きなものを買いなよ」

 ボブカットの女の子が遠慮する。この子が遥か。

「自分の好きなものを買うってなると、遥へのプレゼントってことだからさ」

「んー、お店をまわってから決めようよ。あたしは、なに買うか迷ってるから、色々と見てまわりたいし。ほら、鉄砲の玩具があるかもしれないよ」

 メモメモ。なに買うか迷ってる、と。


「ほら、コトリもさっさと答えろよ。はやくクーポンもらいたいんだよ」

「えー、あんたの前で答えるのは嫌だな。そうだ。あたしがあんたらの分のクーポンも貰ってくから、先に行っててよ」

「おう。二人で先に行ってるよ。なんだったら、追いかけてくるのはゆっくりでもいいからな。じゃあな」

 男の子は、惚れた女と二人きりになれることに喜んでいる。ちゃっかりと手を繋いで、走っていけて良かったね。


 さて、コトリという女の子だけが残された。

 この女の子は、お年玉が欲しくてぐずって泣いていたそうだ。

 そこまでして得た金で、欲しかったものとはなんなのだろう。


「アタシが今日、買いにきたものはプレゼントです」


 連れの二人を先に行かせたのにも意味がありそうだ。

 もしかして、こいつらは三角関係なのか。この子は、ぐずって泣いて得た金で、男の子にプレゼントを買おうとしていたとか。それできかれたくないから、二人を先に行かせたとか。

 と、そこまで考えたものの、やっぱりないかなとも思った。小学生の欲しいものは、つまらんものが多いというのは、手元のメモにデータとして残っている。


「大好きなママにプレゼントを買いたいんです。ママひとりでアタシを育ててくれて、すっごく感謝してるから。いつもは手紙とか手作りのプレゼントしかあげられないのが悔しくて。まぁ、それでママからお年玉もらえなくて泣いちゃうってのもなんか、おかしな話なんですけどね」


「おかしくねぇよ。そのまま真っすぐに育てよ」


「はい。しっかり勉強して、おっきくなったらママに恩返しするんです」

 メモメモ。大好きな家族への愛を形にして買う、と。

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