第26話 寮への帰宅


「もうすぐ寮に着きますわね」


「そうだね。そういえばミツル君。寮に戻った後、どこに行くか決めた?」


「あー……いや、まだ……」


 結局思いつきませんでした……はい……

 いや、待って。言い訳させてほしい。

 俺だって必死に考えたさ!ここに来るまでずっと考えたさ!でも、何も思いつかなかったんだ!

 ……なんにも言い訳になってませんね。知ってます。


「うーん……あ!僕いいこと思いついたんだけど!」


「お!それはズバリ!?」


「ズバリ!どこにも行かない!」


「駄目じゃねえか!……いや、なんかもう一周回っていい案な気がしてきた……」


 確かによくよく考えるとこれ以上見学してもなぁ……

 ……決して考えるのが面倒くさくなったとかじゃないよ?ホントだよ?ミツルウソツカナイモン。


「まぁ、私はそれで構いませんが……ローズさんはどうですか?」


「……私は、ミツルがいいなら……」


「……じゃあまぁ、それでいいか」


 ぶっちゃけると、俺も早く歴史の本読みたかったしな。

 それに俺が行きたいからって、学園のことを知っているこいつらまで付き合わせるのも悪いし。


「あ、寮に着きましたね。では、入りましょうか」


 リザはそう言って寮の扉を開ける。

 そこには、あの人がいた……。

 まずい……!また面倒なことになりそうだ……!


「おかえり。ローズ。大丈夫か?何もされてないか?」


「うん。大丈夫。もう部屋戻る。行こう。エザ」


「ええ。ではお二人とも、また夕食時にお会いしましょう」


「じゃあ……また後で……。ミツル……小説は、夕食の時に持ってくるから……」


「あ、ああ……分かった……。じ、じゃあ、俺らもさっさと部屋に戻ろうぜ」


「そ、そうだね」


「待て」


 俺がすぐに部屋に向かおうとすると、ローズの兄が俺の肩に手を置いてそう言った。

 その手にこめられた力が尋常じゃない。

 いや痛い痛い痛い!!めっちゃ痛い!!


「ミツル・カツラギ。少し話をしようじゃないか」


「い、いや、あの、俺、本を読みたいんですが……」


 俺がそう言うと、ローズの兄の手の力が更に強まった。

 や、やばい!これは洒落にならない!


「なに、そんなに時間はかけない。いいだろう?」


「い、いや、でも」


「うーん?」


「ぎゃああああ!!痛い痛い痛い!!」


「そうかそうか。じゃあ行くぞ」


「ボ、ボーグン!!助けてくれ!!」


 ボーグンは俺のその言葉を聞いて、申し訳なさそうに手を合わせる。

 そしてその後右手でグッドサインをつくった。


「頑張れ!僕は先に帰っておくよ!」


「お前えええええええ!!」


 そうして俺は手を引かれ、ローズの兄に引きずられていった。

 よーし!!俺が部屋に帰ったら、絶対一発ぶん殴ってやるからな!!覚悟しとけよボーグン!!

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