女優生活

cokoly

女優生活[短編]

僕の彼女は女優をやっている。


女優と言っても知名度は皆無に等しく、アングラの小さい小屋で細々と活動を続ける小さな劇団に所属しているのだ。


僕と付き合い出してから、いつしか彼女は四六時中演技をしながら生活するようになった。

「練習だから。変な顔しないで付き合ってよ」

彼女はそういっていつも誰かになり切っている。


初めのうちは僕も面白がっていたけれど、しばらくすると飽きて来て、もうしばらくすると嫌になった。

なにしろいつでも他人を演じている訳だから、彼女が何を考えているのか、だんだん分からなくなってきたのだ。


例え喧嘩になったとしても、一昨日見たアクション映画のヒロインが突然現れて、見よう見まねの回し蹴りを食らったり、その上捨て台詞を浴びせられ、最後にはキスで終わると言う、ちょっとしたワンダーワールドになってしまう。


そしてベッドの中に入ると何処で見て来たのか、ポルノ映画の女優のような少し大げさな喘ぎ声をあげ、絶頂に達するときなどは、アパート全体に響き渡るような叫びになる。

流石にそれは大げさすぎる、と陰ながら僕は思うのだけれど、どんなに言っても彼女はやめない。それが自分の使命だと信じているようだ。


そこまでやれば女優としてもう少し売れてもいいのじゃないかと思うのだが、ちっとも変わらずに小さな劇団で活動しているのを見ると、そういう生活と女優業とはあまり関係ないのかも知れない。


浮気性な女の役に嵌まったりしなければ、まあいいか、と最近だんだん思えるようになって来た。

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