第5話 売店のおばちゃんは話題が尽きない
「息子よ、聞いておくれ」
「なんだい、母さん」
「昨日の昼過ぎにネイルサロンに行ったんだけどね。すごいことが起きたのよ」
「母さんがすごいって言う時はだいたい笑い話だよね?今回はなにが起きたの?」
「何よその言い方、まるで私の人生がコメディ映画みたいな・・・。まぁいいわ。で聞いて聞いて」
「はいはい、何?聞いてあげるから」
「ネイルサロンに行ったのね。その時に久しぶりに前に教会に行っていたおばさん、あの人材派遣とかで働いているいつも忙しそうにしていたあのおばさんね、に会ったのね」
「あの息子さんが最近大学に入ったおばさん?」
「そうそう、そのおばさん。ってなんであんたそれ知ってるのよ?」
「いや、息子さんの入学式の写真をSNSで投稿されているのを見たんだよ」
「なるほどね。でもおばさんの事じゃないのよ、今回は。すごいのはその後から来たお客さんなのよ」
「その後来たお客さんも知り合い?」
「違うわよ」
「じゃあ何?」
「その後、おばさんやネイリストさんとぺちゃくちゃネイルしてもらいながら色々話してたのよ」
「そういえば今回のネイル、結構キレイじゃん。真っ赤でところどころ白いハートと星が散りばめられていて」
「でしょ!どう?かわいい?。この爪で今度久しぶりにデートしようよ!」
「いいけどさぁ、あんまり若作りしていくと周りが俺に向けてくる目が痛いからほどほどにな」
「も~そんなこと言って!だったらさっさと彼女でも作ってデートしてもらいなさい!」
「はいはい、そのうちね。で、脱線したけどネイルサロンの話は?」
「そうよ!でね、話してたらもう一人お客さんが来たのね。で私がネイルしてもらっていたの。でそのお客さんも待っている間、話の輪に入ってきたの」
「なにそのネイルサロン?他のネイリストいないの?」
「あれ?言ってなかったっけ?個人でやっているところなのよ」
「へ~、そうなんだ」
「でね、話に入ってきたそのお客さんが自分の職業を言った時びっくりしちゃったのよ」
「え?なに?どんな職業?」
「聞いたらあなたも驚くわよ」
「もったいぶらずはやく教えてよ母さん」
「聞いて驚かないでね・・・・・・・その人・・・・・・官能小説家なんだって!」
「・・・・・・・?・・・なんだって、俺の聞き間違いかな・・・・・」
「だ、か、ら、官能小説家なんだって」
「・・・・・!・・・は・・はは・・・はっははははっはっはははっははは」
「ね、ビックリしたでしょ?!っていうかあんた笑いすぎよ」
「いや~酸欠になるわ、笑いすぎて酸欠になるよ母さん」
「私、その時は笑わないようにすごく我慢したのよ」
「本当に母さんはトラブル体質だな。まぁ命に関わるようなトラブルには合わないのがすごいくらい。笑い話と武勇伝に困らないな」
「自分でもつくづくそう思うわ。でも、この話はまだ続きがあるのよ」
「なに、まだなんかあるの?」
「で、そのお客さんがね、官能小説の話をしだしたときに私たちの中に教会とか寺院に通うような信仰的な人はいるかって聞いてきたのよ。一瞬、一緒にいたおばさんと顔を見合わせちゃって。目配りで、私たち教会行ってるけど、ここは・・・」
「まさか!教会に通っていること黙ってたの!?」
「そうよ」
「母さん!いいの!?」
「だって、面白そうな人だと思って!あんたも同じことしたでしょ?!」
「それは・・・・否定しないけど・・・」
「なら、私をとがめる権利はあんたにはないわ」
「その通りです母さん・・・」
「で、とりあえず黙ってたらいないって判断したんでしょうね。色々話し出したのよ。と言うか、読みだしたのよ」
「何を?」
「下書き中の官能小説とかエロポエムとか」
「え!?」
「なんか元カレの交際を基にした小説とか、電車で見かけた黒人さんを基にしたポエムとか」
「そんなエロいものを聞いていたと?」
「いや~ね~、確かにエロかったけど直接的な表現はなかったわよ。比喩表現とか使ったり、遠回しに言ったりして」
「表現方法がどうなろうと、エロいのには変わりないと思うけど」
「否定はしないわ。私も含めて聞いているみんなちょっと興奮しちゃったわ。うふふふふ」
「なんだよそれ・・・で、この話におちはあるの?」
「それがさらに笑えるのよ」
「まだなんかあるんかよ」
「色々とエロい事聞かせてもらった後にその人が言ったのよ、翻訳して出してみたいってね。そしたらネイリストさんがね言っちゃったのよ。あんたが教会の通訳だってこととか、副業で翻訳やってるとか」
「ちょ!母さん!俺、官能小説なんて訳す気さらさらないんだけど」
「わかってるわよ。だからダメって言ったんだけどその後が大変でね」
「え?なんで?」
「官能小説家さんがね、ビクッて跳ねたのよ。そして険しい表情を浮かべて私に聞いたのよ。さっき教会に行っているって言わなかったけどもしかして・・・」
「あ~、教会に行ってることバレたってわけね」
「そうなのよ。あははは。でもちゃんとフォローしたのよ。そういったことは信仰とかと関係ないって。興味あったから黙ってたってね。ちゃんと謝ったし」
「で向こうさんは納得したの」
「ついでにうちの聖典ってマイナーな箇所だとエロい部分もあるって教えてあげたら興味持ってくれて許してくれたわ」
「あの部分ね。確かに意味してることは違うけど、文面通り受け取ればかなりエロいよな。確か結婚式とかでたまに使われるし、愛の告白っぽいところもあるし」
「そうなのよ。だから薦めたら、お堅いところの聖典にそんなことが書いてあるなんて!って目を輝かせながら言って帰っちゃったのよ」
「あれ?もしかしてネイルせずに?」
「なんか、インスピレーションが沸いたらしくてネイルどころじゃなかったみたいで」
「笑えるわ。本当に母さんからは面白い話が尽きないよ」
「自分でもびっくりするぐらいよ。それより、私はあなたからのろけ話の一つや二つ聞きたいものよ。どうなのないの?」
「そもそも彼女がいないんだからないに決まってるだろ母さん・・・」
「彼女いないって言う割には女友達は多いわよね、あんた・・・」
「多いか?」
「多いわよ。いないの?その中に気になる子は?」
「う~ん、いないって訳じゃないけど・・・。のろけ話はできたらするよ、そのうち」
「またそうやってはぐらかす。行き遅れだけにはならないでよ」
「はいはい、わかってるって。それより明日は土曜日だけど出勤だからもう寝る」
「わかったわ。私も明日売店のシフトが入ってるから出勤よ」
「そうなんだ、じゃあ一緒に帰れる?」
「私は16時までだけどあんたは?」
「その時間までに終わるようにするよ、だったら」
「いいの?」
「うん、いいよ」
「なら、おやすみなさい」
「うん、おやすみ母さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます