第4話 少女の非日常の始まり

月が暗闇をそっと照らすように優しい笑顔を絶やさないお母さん。

太陽が力強く輝くように力強い笑顔を絶やさないお父さん。

そんな二人が今は私の前でボロボロで血を流している。なのに、こんな状況で私はなぜか安心している。

だからお母さんの言ったことに対して取り乱さずに答えれたんだと思う。

「お母さん、すべてを渡すってどういうこと?もしかしてアビソル族だから吸収の能力でも使うの?でも私はハーフだから上手くできないよ」

「・・・わかってる・・・だからまずは私から生命力を流すから・・・」お母さんは少し顔を歪めながら続ける「そうすればおのずと吸収できるようになるわ」


でも私は思った、そんなことして大丈夫なんだろうかって。お母さんもお父さんも傷だらけで、私が見てもわかるぐらいボロボロなのに。

そんなことを考えているうちにお母さんとお父さんがそれぞれ私の片手を取った。

「でもお母さん、二人ともこんなにケガしているのに大丈夫なの?お父さんなんて片腕がないよ・・・先にお父さんの治療をしてあげてよ」

「俺のことはいい。細かいことは気にしないでお母さんの言うとおりにするんだ」とお父さんが言った。

「今は私たちより自分の心配をしなさい」とお母さんは言うと目を閉じた。


「じゃあいくわよ。リリア、目を閉じて私とお父さんの手の感触に集中しなさい」とお母さんが言ったので私は言われたとおり目を閉じて集中した。

いままで何度か森の入り口に住んでいる婆様から魔法について教えてもらったことはある。魔力の流れを感じることから始まる、なんてことを毎回言われていたけどいまいちピンとこなかった。でも今は違った、今まで感じたことがないような感覚が私の手に触れているお父さんとお母さんの手から流れてきた。まるで何か、水の流れのようなものがお母さんとお父さんから私に向かって流れたまっていくような感覚。でもたまっているモノが何なのかは靄がかかったみたいでよく分からない。


私はお母さんのアビソル族としての特徴は引き継いでいる。命があるものなら手を触れただけで生命力を吸収することができる、いいや正しくは奪うことができる。

あれ、吸収じゃなくて、奪う?

私なんで今まで知らなかったアビソル族の本質を知っているの?

それだけじゃない、「???お母さん、何これ??なんだか私、力がみなぎるし、知らないことがわかるし、行ったことがない場所を知っているし、覚えていない記憶もあるんだけど・・・」

「なら、説明しなくても今私があなたにしていることがわかるわよね」そうお母さんが言うとボンヤリさっきまで靄がかかっていてよくわからないことがハッキリとわかるようになった。

それと同時に私はお母さんとお父さんが何をしようとしていることも気がついてその手を放そうとしたけど二人とも私の手が離れないように強く握った。


「お母さんもお父さんも私の手を放して!嫌だよ!!こんなこと続けたらお母さんとお父さんが消えちゃうよ!」

必死に手を放そうとする私にお父さんがきつく言った「やめなさいリリア!!」そして申し訳なさそうな表情を浮かべて「もう、今の私たちにはこんなことでしかお前を守ってやれないんだ・・・」


こんなこと、とお父さんは言ったけど、私がされていることは・・・いいえ、していることはこんなことで片づけられないこと。

私が今していることはアビソル族の本質に関わること、他の種族に危害を与えないため、アビソル族が目を付けられて魔王に蹂躙されたり人間族に討伐されないためにアビソル族内で取り決められた掟を破っている。バンパイア族やサキバス族のように特定の形状の生命力からでのみ吸収する種族と違ってアビソル族はどんな形の生命力でも吸収することができる。もっと厳密的にいうと、どんな形の生命力でも、それが例えば無機物からでも、奪い取ることができる。そして生命力だけではなく、そのものに内包されている全てを吸収できる。記憶や感情、力や知識などどんなものも奪い取ってしまう。生命力を一定量以上奪われたものは、それが有機物でも無機物でも、最終的には跡形もなく消えてしまう。アビソル族は本能的に吸収量の限度がわかり自分で奪い取る量を調整できるけどハーフである私は人間族側の特徴がそれを邪魔していて無意識に吸収する量にブレーキをかけていたみたい。だから大した吸収力はなかった。

今お母さんはその無意識のブレーキを外しているだけじゃなくて、吸収を促すようにもしている。そして自分とお父さんの文字通り「すべて」を私に奪わせている。


それは、お母さんとお父さんの

力も

能力も

魔力も

経験も

記憶も

思い出も

知識も

感情も

願いも

夢も

希望も

そして、私への愛情も。

それらすべてが私の中に流れ込んできて、自分の一部になっていくのがわかる。


流れてくる全てのものによってすべきことが分かった私はいつの間にか二人から手を放そうとするのをやめていた。

そして目をゆっくりと開きお母さんとお父さんを交互に見た。


先に口を開いて謝ってきたのはお父さんだった「ごめんなリリア。もうちょっとカッコいいところ見せようと思ってたけど、油断しちまったせいでこんな目にあわせてしまった。」

「そんなこと言わないでお父さん。お父さんは私の誇りだよ。今は私の中にある記憶の中のお父さんはかっこよくて勇敢だよ。これならお母さんが惚れちゃうのも納得するよ。私こそ、今まで守ってもらってばっかりだった。ごめんなさい、そしてありがとう愛しのお父さん。」

お母さんは「本当はちゃんと色々なことを教えてあげたかったけど、母親として、女として、アビソル族として・・・でもこんなことになった後だとただの言い訳になるわよね。もっとあなたと一緒にいたかったわ。大人になったあなたを見れないことだけが悔しい・・・・・こんな不甲斐ない私を許してくれる?」とお母さんは涙を流しながら聞いてきた。

「なんで許さないと思ってるのお母さん?今まで教えてもらってばかりで、結局最後の最後まで教えてもらいっぱなしよ。今だからこそ全部わかるよお母さん、どれほどお母さん今まで色々と頑張ってきたのかが。私こそ、今まで支えられてもらってばっかりだった。ごめんなさい、そしてありがとう大好きなお母さん」そう言って私は二人の手を離した。


つらいはずなのに、痛いはずなのに、苦しいはずなのに、二人はそれを口に出すことなくただ私のことだけを思っていてくれた。毎日当たり前に与えてもらっていた親の愛情の暖かさを今になって本当に理解できた。

「でも、やっぱりヤダよ・・・ううっ うっ・・・・・二人とも・・・いかないでよ・・・」私は血や泥で汚れるのを気にせず二人を抱きしめて、込み上げてくる悲しみを抑えきれずに泣いてしまった。

お母さんは私の背中をさすってくれて、お父さんは私の頭を撫でてくれた。そして二人はそろって私の耳元に囁いた


「リリア・ジューネ・ブラッテッド、あなたは私たちの宝。これから何があろうともそれを忘れないで強く生きなさい。私たちの思いはいつでもあなたと共にいるから」

そして最後に「愛してる」と言って二人の温もりも、体重も、においも、感触も、小さな光の粒となり消えていった。


私は零れた涙を強引に拭いて立ち上がった。

もう、泣かない。

泣くわけにはいかない。

お父さんとお母さんの全てが今は私中にある。私の中で生きている。


まずはの状況を切り抜けなければ。

お母さんから吸収した魔力とお父さんから吸収した能力のおかげでどうすればいいのかだいたいわかる。まずは最大の障害でこの状況を作った張本人をブチのめす。

以前の私なら“ブチのめす”なんて言い方しなかっただろうけど、今は違う。たぶん吸収した反動で精神構造が少し変わったかもしれない。まぁ、それは置いておいて。その後どうするかは婆様と合流してから考えることにしよう。


そういえば、何かおかしな感じがする。

なんだか身体に違和感を感じる。

自分の身体を見渡してみるとなんだか手足が長くなったような気がするしなんだか目線が高くなったような気が、それに胸に目を落とすと前はなかったたわわなふくらみが二つある。

恐るおそる胸に手を伸ばして掴んでみる「こ、これは!・・・・・本物だ!!」つい声に出してしまった。森でコロポックル族に会うといっつもペチャパイだの、まな板だの、寸胴だの言われていて気にしていた胸。お母さんは大きくなれば自ずと大きくなるなんて言っていたけど一向に大きくならない胸に最近不安を覚えるようになっていた。けどこれで不安一気に解消した!

でも、それだけじゃない。腰に手を回して見ると尾てい骨あたりからスラッと尻尾が生えている。何度か空を飛んでいるところを観たことがある龍人族のようなズッシリと太い尻尾ではなく、同じバンパイア族やサュキバス族と元は同じ種族だけあって、彼らのようなスラッとして先が尖っている尻尾だった。

「お母さんには尻尾が・・・・なかった?」自分自身は見たことがないけどお母さんからの記憶の中には尻尾が生えているお母さんの記憶がある。どうやらお父さんや私に合わせて外見を変えていたことが記憶からわかる。


そんな風に自分の身体を色々ジロジロと見ていると、あのねっとりと絡まって首を締め付けてくるような感覚がした。今ならわかる、これは殺意と嫌悪感が入り混じったもの感情だ。視線を向けるとそこには蝙蝠羽の魔族が羽を広げほんの少し浮いた状態で佇んでいた。お父さんからくらった攻撃はさほどダメージにならなかったようで、服が汚れたのとところどころ切り傷やかすり傷がある程度だった。

「一応聞きますけど、お嬢ちゃんはリリア・ジューネ・ブラッテッドでよろしいですかな?」

「ええ、そうよ」表情は笑顔だけど殺意と嫌悪感が込められた感じで聞いてきたのを、私は端的に答える

「なんだかお嬢ちゃん、魔族っぽくなっていませんか?」

「そうね」あんまりこいつとは会話をしたくない

「そう言えば、お父さんとお母さんはどこですか?」

「いないわよ、もう・・・」わかりきったことを聞いて来る

手を顔に置いて、答えた私を馬鹿にするように「ははははは、傑作ですよ、これは!お嬢ちゃんおかげで邪魔者を二人同時に葬ることができてしまいましたよ!ははははは、笑いが止まりませんよ。ははははは」

「そうね、私のおかげだわ」大声で笑う蝙蝠羽の魔族を睨むと不意に笑い声はやんで

「では、なぜお嬢ちゃんは私の前にいるんですか?」と顔を覆っていた手の指の間からギロっと視線を向けて言ってきた。

さっきまでとは比べ物にならないくらいの殺気を私に向けられて足が竦みそうになったけ踏みとどまって、私は睨み返しって言った「聞かなくても大方予想はできるでしょ」

手を顔からどけて今度は呆れた顔をして「ええ、私もバカではないです。お二人はどうやら文字通り自分の命をあなたのために犠牲にしたんですね。闘士ザハールは人間だからわかりますが、セリア姫まで人間のように自己犠牲なんてものに目覚めて。呆れますよ」肩をすくめながら言う

「でも、そのおかげで私はここにいる。あなたを殺すために」

できるだけ淡々と感情を出さないで答える私に対して、ため息混じりに「あ~あ、そうですか。両親の敵討ちってことですか。さっきまで殺し合いの“こ”の字も知らなかったお嬢ちゃんにそんなことできるんですか?」

「できるからここにいるのよ!」


両手を前に出すと私の周りにお父さんとお母さんが消えた時の光の粒に似たものが生じた、その光の粒は右手首に金色のブレスレット、左手首に銀色のブレスレットとなって集約した。さらに私が二つのブレスレットに意識を集中すると金色のブレスレットはお父さんのゴルディアスに、銀色のブレスレットはお母さんのシルバリオになった。その二つの武器を私が握ると急に色々な記憶と知識が頭の中に流れ込んできた。まるで二つの武器が私にどう戦えばいいのかを教えているようだった。


「ほうほう、これはなかなか珍しい、武器の違う二刀流ですか。確か現勇者がそうだったような気がします。で、お嬢ちゃんはそんな物騒なもので何をするのですか?」

「私の八つ当たりの道具として使うんですよ!」


答えると同時に私は一直線に飛び出した。

私自身は戦ったことはない。魔獣が出る森の奥へはお父さんが行かせてくれないし、たまに飛んで来るドラゴンなんかはお母さんがいつも追い払っていた。でも今の私にはそんな二人の記憶も経験も技術も知識もある。まだなれてないけど、多分大丈夫、倒せるはず!

右手のゴルディアスを振り上げながら間合いを詰めて、。蝙蝠羽の魔族の目前までくると勢いよく叩きつけようとすると剣で受け止められた。


金属同士のぶつかる鈍い音が響くと同時にその衝撃が鈍い痛みとして腕に伝わって来る、少しキツイかも。

「所詮この程度ですか?」

「そんなわけないでしょ!」余裕そうに聞いてくる蝙蝠羽の魔族に答えながら彼を押し飛ばす。

同時に私は後ずさんで、シルバリオを前に突き出して構えるとその先に埋め込んである青いクリスタルが淡い光を発した。するとシルバリオの先からいくつもの光線が放たれて、蝙蝠羽の魔族に向かって飛んでいった。

蝙蝠羽の魔族は左右にフェイントをかけて避けたり、持っている剣で弾いたりして光線を去なしていた。それだけじゃなくて、少しずつこっちとの距離を詰めていく。光線の一つが剣に弾かれ手前に落ちると砂埃が舞い、相手が見えなくなったからシルバリオを下げた。それを狙っていたかのように勢いよく蝙蝠羽の魔族が砂埃を突き破って一気に私に近づいた。

「威力は高いですけど、コントロールがダメダメですよ。ははははっ、両親を吸収したところで素人には変わりないですねー」こんどは向こうから勢いよく剣を叩きつけられる形になった。剣と斧、二つの武器がギシギシと鍔迫り合いをして、擦れ合う不愉快な音がする。

「だったらーー!!」叫んだ私はお母さんの記憶を頼りにある魔法を使った。左手に握っていたシルバリオが光の粒となって消えると同時に横から“もう一人の私”がその消えたシルバリオの先に光の剣を出しながら突っ込んだ。

「ほ~。これは多重投影の魔法ですね。しかも質量のある投影とは!なかなかやりますが2人になった程度ではまだまだ私を抑えることは無理ですよ」鍔迫り合いをしている私を躊躇なく蹴り飛ばして、そのままの勢いで突っ込んできた私を掴み背負い投げた。

蹴り飛ばされた私も背負い投げられた“私”も倒れこんでいる隙に蝙蝠羽の魔族は飛んだ。

「多重投影で自分の分身を作って同時攻撃をするのはなかなかいい案でしたが、元がたいした強さではないので肩透かしを食らいましたよ。多重投影はこうやって使った方が扱いやすいんですよ」と言うと彼の周りにいくつもの黒い剣が現れた。お父さんに刺さっていたものと同じだ。


現れた剣は全てその剣先が私に向けられていた。

ヤバい、と思った瞬間にいくつもの剣が一斉に私に向かって飛んできた。シルバリオを持っていた“もう一人の私”が倒れているその場で消えると同時に私の左手にシルバリオが戻ってきた。そしてゴルディアスと交差させて目の前に光の壁を作った。

私に向かってくる無数の黒い剣は光の壁や地面にぶつかると爆発する。絶え間なく何本もの剣がぶつかっては爆発する。


ボウゥ

ドゴゥ

バァン


爆発のせいで響き渡る爆音はやむことがない。その間私はただひたすら耐えて、次はどうすればいいのかを考えた。

少しずつお父さんとお母さんの記憶とかが馴染んできたからだと思うけど、色々とこの状況を向けだすための方法が思い浮かんだ。そして強引だけど一番確実な方法を選ぶことにした。あとはこの攻撃がやむのを待つだけ。


そう時間はかからないで雨のように降っていた黒い剣は止んだ。

「う~ん、なかなかしぶといですね。いつまでもあなたの相手をする訳にはいかないのでそろそろ終わりにしましょうか」そう言うと蝙蝠羽の魔族は一直線に向かってきた。

「そうね、私もさっさとあなたをぶちのめしたいわ」向かってくる彼に答えながら私はまた“もう一人の私”を出した。

「さっきと同じで二人になったところで同じですよ!」握っている剣が黒い光を放ちながら私に向けられる

「一言も2人とは言っていませんけど」そう言って10人の“私たち”が一斉に蝙蝠羽の魔族に掴みかかった。

「ん!なに!?こんな数を一斉に出すなんて。嬉しいですよ!これなら殺し甲斐がありますからね!」

「喜んでもらって嬉しいですが殺されはしません」私は蝙蝠羽の魔族の後ろへ回り込み後頭部を掴んだ

「何をするつもりですか!?」10人の“私たち”に手や足を押さえつけられて身動きが取れない彼が叫ぶ

「私もお母さんと同じでなんでも吸収できる。だからあなたから必要な物だけを吸収、いいや奪い取らせてもらうのよ」そいって私は吸収した、必要なモノだけを。


「うっ!!!!貴様ああぁぁぁ!!!」蝙蝠羽の魔族は何をされているのか分かっているみたいで慌てて剣を握っている右腕を振ると、その腕を抑えていた2人の“私”が振りほどかれた。それを見計らって彼は左腕を抑えていた“私”と右足の“私”、腰にしがみついていた“私”に切りかかった。

「うっぐぅ!」切りつけられた“私”が光の粒になって消えると同時にその“私”たちが感じた痛みが私を襲った。すぐにまた右腕を抑えたけどこれで私を入れて合計8人、これ以上人数を減らしたら抑えられなくなる。

「放せぇぇぇぇ!」と抵抗する彼をさらに“私たち”が強く抑える。

「こうなったら!」触れるだけで彼を吸収しようと思ってたけど、それじゃあ時間がかかる。私は後ろから蝙蝠羽の魔族の首筋に噛み付いた。

「がっ!貴様!!!」

抗おうとする声を無視して私は集中した。蝙蝠羽の魔族は憎い、本当は今すぐこの手でこの頭をひねりつぶしたいとは思ったけれど、それよりも今は情報いる。


・・・なるほど。

新しい魔王が出現したから前魔王を倒した勇者一行がまた邪魔をしないように殺す計画を実行していると、魔法使いはすでに始末していて次はお父さんってことだったんだ。ついでに前魔王を裏切ったお母さんも始末したかったってこと。

魔王の保身のためにだけに私達は襲われて・・・お父さんとお母さんはあんな目にあったんだ・・・


意識を目の前の蝙蝠羽の魔族に戻す、情報や記憶からはおおかた必要なものは奪えた。次は、ちょっと気がひけるけど、こいつの能力で奪えそうなものはないか・・・

「お嬢ちゃん、セリア姫から力を受け継いだ割にはあんまり魔族っぽくないですね」と今では抵抗を辞めた蝙蝠羽の魔族言ってくる。

「なので、これもついでに吸収してくださいよ!」と急に叫ぶ


しまった!!

お母さんと同じで、こいつも自分から生命力を吸わせている!

そう思った時にはもう遅くて、光の粒になって消えながら吐き捨てるように彼は言った「これで···お嬢ちゃんも···魔族の仲間入りだよ〜 はっははははぁ!!」



そして

笑い声が消えた後、残されたのは私だけだった。

お父さんもお母さんももういない。

蝙蝠羽の魔族も私も消えた。

周りを見渡すと、家があった一帯は木々がなぎ倒され荒れ果てていた。


そして私の内側から引き裂くよう痛みと憎悪感が溢れ出る。声にならない叫びを出しながら、私は膝をついて四つんばいに倒れた。

体のあちこちが痛い。痛みと同時に、私の心の中では憎しみと怒りと苛立ちが大きくなっていくのがわかった。自分では抑えられないこの感情は次第に破壊衝動へと変わっていって、目に見えるすべてを壊したい、喰らいたい、奪いたい。と思うようになってきた。

蝙蝠羽の魔族は最後に私を醜い魔物に変わるように仕向けたのだった。



その時、ふと目の前に一匹の黒いケットシーが現れた。

この森にはケットシーがたくさんいる。猫の外見をした魔物ので、魔物だけど知性が高くて魔法もつかえる、基本的に温厚でだし必要以上の争いをしない。今みたいな騒ぎがあれば身を隠して遠くから様子をみているだけでこんな荒れ果てた場所には来ない。ましてや、目の前に破壊衝動に飲まれそうなものがいたら。


破壊衝動のせいでケットシーに飛びかかろうとしたけど全身が痛いし、体が重い。

ケットシーは私に「質量付きの多重投影の魔法がつかえることは誉めてあげるけど。その反動が何だかも知らずに使うのは褒められないね」

毛づくろいをしながら「そんな高度な魔法が代償なしでできるわけがないのよ。10人分の自分のダメージが今のあなた一人にかかってるんだから。でもさすがにご両親を吸収したから一時的なダメージだけで済んだのね」とどことなく聞いたことのある声で語りかける


痛みと破壊衝動で正常な意識でない私にはぼんやりと、毛づくろいをやめて私に近寄ってくる黒いケットシーが見えた。体の痛みがなかったら多分今頃このケットシーに襲いかかっていたと思う。眼に映る全てのものを壊したい思いでいる私に「こんな状況で申し訳ないんだけど、あなたにお願いしたいことがあるの」そして私の頭に手を置いた。

「まぁ、そのためにもまずは余計なものまで吸収しているあなたの心と体を何とかするわね」

その言葉を最後に私の意識は途切れた。




私の意識が戻ったのが分かった、正常な意識が。私は横になっていて隣でさっきのケットシーがまた毛づくろいをしている。

心が軽くなってさっきまでの破壊衝動がきれいさっぱりなくなっていた。でもまだ身体が重くて痛かった。

私に気がついてケットシーがいった「何とかなったけどまだ安静に」

「あ・・ありが・・・とう・・ござ・・・・」

「今は何も話さないで、ただ私が今から言うことをしっかり聞いてちょうだい」

ゆっくりと私はうなずいた。

「あなたが倒した魔族の残りかすを身体からほとんど出したけど、ほんの少し残ってしまった。たけど心には影響ないわ。ただ身体のほうにはちょっと残っているから気を付けて、でもあなたは若いからすぐに慣れるしなんとかなるはず」

と言われても今は痛みとダルさと空腹のせいで自分自身の体に起きたことを把握できない。

「でここからが本題。

単刀直入に言うと今からあなたには別の世界へ行ってもらいます」

頭が回らないからなのか言っていることがよくわからない。

「よくわからないって顔してるね。今の状態のあなたには理解はできんと思うから、今は聞くことに集中すしてちょうだい。理解するのは後でもできるから」

黒いケットシーの言う通りにしよう。




「この世界を管理している神様から聞いたのだけれど、ちょっと前に他の世界の神様たちと話し合ってある事を決めたの。詳しいことは聞いてないけれど、崩れかけの天秤を直すのにある世界を助ける必要があるらしくて、そこでこの世界からあなたの両親も含めて一家を別の世界に送ることにしたんだけど・・・」

すこしの間を開けて申し訳なさそうにケットシーは続ける

「本当はこの森がこんな状態になる前に来るべきだったけど・・・そうすれば余計なジャマもなく送れたのに、あなたのご両親も助けれたのに。でも今はそれを悔やんでいる暇はないの。今からあなたを別の世界に飛ばすから、ちょっときついかもしれないけど耐えるのよ、わかった?」

私がうなずくと

「じゃあいくよ!」

そう言ったところで私の意識は沈みだした。私を中心に魔方陣が展開し光が集約していく。沈んでいく意識の中、ケットシーの声が聞こえた。

「ご両親に何もしてあげれなくて本当にごめんなさい・・・あの二人の分もあなたが生きるのよ・・・がんばってねリリアちゃん」

その言葉を最後に、私の意識は一気に沈んだ。


あぁ、そうか。聞いたことあると思ったら、リリアちゃんって。あのケットシー、婆様だったんだ。




どれぐらいたったのかはわからないけど、次に私の意識が戻った時は、うっすらと自分が落ちている感覚はあった。風を切る音が聞こえながらひたすら落ちていく感覚がする。そして、薄い意識がまた沈んでいく、真っ逆さまに沈んでいく。

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