第1話 社長は眠いよ

「では、輝社長。ボナンザ博士から上がっている追加予算の承認お願いしますよ」画面の向こうでは日が傾き夕焼けがオフィスをオレンジ色に照らしている。

「分かっていますよ、彼の研究なしでは事が進みませんからね」一方こちらは日が昇り始めたところで薄暗い朝焼けはお世辞にもこの書斎を照らしているとは言えず、パソコンの青白い光が僕の顔を照らす。

「それと、ルセーブル博士からいただいた試作機ですけど。素晴らしいですよあれは!掘削作業や運搬作業があのように楽になるとは最初は思いませんでした!試作機から取れたデータとこちらの技術者の要望とアイデアをまとめた資料もすぐに社長とルセーブル博士にお送りしますのでよろしくお願いします」

「ははは、最初見た時には自分も半信半疑でしたよ。あんな、アニメに出てきそうなロボットが本当に使えるかとは思いましたけど、現場からそういった声が上がってきているなら良かったです」

「それはそうと。社長、こんな時間までご対応いただきありがとうございました」そういって画面越しで頭を下げる工業部門トップのグランドール部長

「こちらこそありがとう、残業をさせてしまってすまない。来週こっちに戻ってきたら色々よろしくお願いするよ」

「ちゃんと他の日は定時で帰っているので問題ありません。では、また来週そちらに戻りましたらお伺いします」

「うん、待ってる。じゃあお疲れ様です」

「はい、お疲れさまでした」

日焼けして一層筋肉質に見えるグランドール部長が挨拶を返したのを確認してビデオ会議の画面を消す


こわばっている手足を伸ばし、一呼吸おいて残りの仕事の片付けに移る。

海外支店とのビデオ定例会議を一日に集約したのは効率がいいが肉体的には結構ハードだ。ましてや今月は半数以上の部長陣の出張と重なり、いつも以上に会議が長引いた。

窓に視線を向けると、朝焼けで薄っすらと明るくなっているのがわかる。時間を確認するとすで早朝5時半を過ぎていた。マグカップに入っていたコーヒーの残りを飲み干し、最後に今日一日の送られてきた資料の整理をして終わることにしよ。


~20分後~


「これで良しっと」独り言をつぶやきパソコンの電源を落とす。

世界中の支店とのビデオ定例会議は夜通しの会議になるので金曜日の夕方から在宅ですることにしている。

そして会議が終わる土曜日の早朝には、個人的に楽しみしていることがある。

それは、知未を寝顔を見ることだ。

付き合っていたころはお義父さんからの言いつけでお泊りNGだったこともあり彼女の寝顔を見ることはできなかった。けど、結婚した今は関係ない。好きなだけ寝顔が見放題、さらに悪戯し放題・・・・いけない、オールしたせいでテンションがおかしなことになっている。早く知未の寝顔が見たい。と考えながら寝室のドアを開けると


「あら輝、おはよう」

「お、おはよう」

なんと知未が起きていた。しかも下着姿で。

「定例会議は終わったの?」と髪を乾かしながら聞いてくる

「ああ、終わったよ、知未。珍しいね、もう起きているなんて」

「何時だと思ってるの?もう6時過ぎよ」

「いやいや、まだ6時過ぎだろ?土曜日なんだしゆっくり二度寝でもするばいいのに」というか、こっちがひと眠りしたい。でも同時に、下着姿の知未を見ているとムラムラしてきた。

彼女の腰に手をかけて自分のもとに引き寄せてキスをしようと顔を近づけると

「ちょっと嫌な夢を見てね・・・それで汗かいたからシャワー浴びてたの」と言われた

「君が悪い夢を見るなんて珍しいこともあるね」確かに石鹸の香りが漂っている

「まぁでも夢だから大丈夫よ、気にしないで。それより、どうして私にこんなに密着しているのかしら?」

「イヤ〜、下着姿の君を見てムラムラしてね。つい・・・」

「何よ、変態さん。裸ですらないのに欲情したの?」二人っきりの時にたまに見せる知未のこのちょっとSっ気のあるいじり方が好きだ。

「それだけ君の身体が魅力的ってことだよ」そう言うとベッドに押し倒され、知未に馬乗りにされた

「どうする?今から一回やっておく?」

最近二人とも忙しくてそっちの方はご無沙汰しているし、正直数か月前から二人でジムに通い出してからというもの、知未は腰回りを中心に引き締まってきた。元から、胸やお尻が大きい訳ではないけど、その分スラっとしていたこともあり今では引き締まった筋肉も合わさって健康的なエロさを放つ身体になっている。

「やりたいのはやまやまだけど、実は今から会社に行かなきゃいけないんだ・・・」

「えええええ~~~」

ムスッとしてから知未は退いてくれた

「休日出勤は基本的に許可されてないんですけど、社長」となんだか不機嫌そうに言われる

「ごめん、知未。どうしてもエルくんに確認しておきたいことがあって」

ビデオ定例会議で上がってきた案件でどうしてエルフィンに確認をしなくちゃいけないことがある。でもそれだけだ。ここは一つ機嫌取りに、

「代わりと言っちゃなんだけれど、知未も起きていることだし、一緒に行かない?ついでに途中で朝ご飯を食べに行こうよ」

「それはいいアイデアね」

「じゃあ、ちょっと待ってくれる準備してくるから。それと帰ってきたらひと眠りするけど夕方からは久しぶりにデートでもしない?前から観たいって言ってた映画を観に行こうよ」

「その後は?」目をキラキラさせながら聞いてくる知未

「後は、美味しいものでも食べて家に帰ろうと思ってたんだけど」

「なら、遅くはならないわね。うふふふふ、じゃあ、たのしみだわ」

なんだか知未がニヤけているのは気のせいだろうか?



大学を卒業と同時に知未の両親に結婚のお願いをしに行ったときに彼女の父親、今ではお義父さん、から結婚の条件にと言われ複合総合企業AtoZの社長になったしまったのだが、この会社に入るまで気がつかなっかことが多かった。

本社があるこの街と周辺の自治体にある企業はほとんど全て何かしらの形で取引があり、さらに「鉛筆から宇宙船まで」をモットーになんでも生産・取引・販売をこの会社は国内のみならず国外にも手を伸ばしている。さすがにひとつの業種や事業に特化した企業には劣るが、これだけ色々と手を出している企業はここ以外ない。

知未とは小学生の頃の付き合いで高校に入るまではずっと同じクラスだった。ずっと一緒にいるわけではなかったけど事あるごとに一緒になる機会が多く、ようは世間で言う"幼馴染"というやつである。大企業の会長の一人娘ということで、周りから微妙な距離感に置かれた彼女だが本人はというと、いたって質素で真面目な子だった。そのギャップに惹かれたのか、高校に入って初めてクラスが別れて一緒にいる機会が減ったこともあり初めて異性として意識するようになった。自分が告白する前に知未の父親に手を打たれてしまったのは衝撃だった。

ある日、知未に言われて彼女に家に上がると、父親と二人っきりにされて開口一番に「娘を好いているなら、付き合ってはくれんかい?」と言われた。一人娘で、さらに老いてから授かった子と言うこともあり知未は小さい頃から両親に可愛がられ大切に育てられた。その娘をこうもあっさり嫁に出すのは何かおかしいと若いながら思った。父親曰く、小さい頃から自分に対して好意を持っていたそうで、何処の馬の骨わからない男に嫁に出すよりどんな時も身近にいてくれた気ごころしれた男に嫁がせるほうがは安心するとのことだった。こんなことを聞かされる嫌な気はしないと浮かれてしまった自分は申し出を受けせいで、そのあとに出された条件を否定することができなくなってしまった。条件は大学へ行き留年せずに卒業すること、大学を出たらAtoZで働くこと、この2つだった。

まぁ、大学卒業したらお義父さんにまたハメられて社長をやり続けることになるとは当時は思わなかったけど・・・


街の北部にある山間にある本社へ向かう途中にある行きつけの喫茶店 " 砂浜のカフェ " に寄った。

砂浜と店名についているが別に海が近いわけではない、そもそもこの町から山間にあるので海までは車で2時間はかかる。聞くところによるとマスターの故郷が砂浜がきれいな場所で知られているらしく、それで店名がこうなったとのこと。

一晩中コーヒーを飲んだ者にとってはさらに朝ご飯でコーヒーは頼む気になれず、ホットココアと甘ったるいパンケーキを頼んだ。知未はいつものブラックコーヒーとベーコンレタスサンドとグラノーラヨーグルトだ。

「今日は久しぶりお二人一緒なんですね!ごゆっくりどうぞ」とマスターのお孫さんでウエイターのお嬢さんに言われた。

「煇、気おつけてね」とお嬢さんが離れてから言うとコーヒーを口に運ぶ

「何を?」と急に言われてもわからないので聞き返すと

「あの子、あなたに惚れてるわよ」

「はぁ!なんだよ急に?」

「正確に言えば、多分、尊敬しているだけかもしれない」

「それはそうだろ、既婚者に惚れてもいいことないし」

「あの年頃の子は、年上男性に対する思いが、恋なのか尊敬なのか自分で判断できないのよ」

「まさか、知未もそういう時期があったのか?」

一瞬、知未がサンドイッチを食べる手をともめて

「私は、昔からあなたしか見てなかったから・・・」と小声でごにょごにょしながら答えた。

ニヤニヤしてしまう。

「ニヤニヤしないで食べなさい!」

「は〜い」


着いたときはまだ早朝と言うこともあり、あまりお客はいなかったが、頼んだものを食べ終わるころにはほとんど満席状態になった店内。食べ終わったことだからそろそろ会社の方に向かおうと思い、会計を済ませるためにレジに行くと見知った顔が店内に入ってきて声をかけてきた。

「これは、社長と知未さん、おはようございます」と営業部文具課の緑山さんが挨拶してきた。

「休日でも爽やか紳士ですね、緑山さん。おはようございます」とこちらも挨拶し、知未も「おはようございます」と答えた。

「爽やかなんてことはないですよ、いつも紳士であるようには心がけていますが。っとそうだ!」と何かを思い出したかのようにこういった「ほら、寛記。父さんが務めている会社の社長だ、あいさつしなさい」と言うと、彼の後ろから一人の少年が出てきて礼儀正しく「はじめまして、寛記と申します。父がいつもお世話になっております」と少年にしてはよくできている。

「はじめまして、寛記くん。直接会うのは初めてだね。この前、誕生日に送ったノートは気に入ってくれたかな?」

「はい、もう半分ほどは書き込みました!」

文具課の課長の息子だけあって親と同じ大の文具好きである。それを緑山さんから聞いていたため一か月ほど前の彼の誕生日に試作段階のノートを送ってあげたのだ。

「それは良かった。あとで使ってみた感想を送るのを忘れずにね、商品開発に生かしたいから」

「僕なんかの感想でよろしければ喜んでお送りします!」

「お父さんから聞いているかわからないけど、うちの会社はモニターユーザーの意見で製品を作っているからね。感想期待しているよ。」

「はい!」と緑山青年は元気よく答える。お父さんがあれだから、息子さんの将来も期待できそうだ。


緑山親子は席に着かずテイクアウト用のコーヒーを買った。

「緑山さんもよくここを利用すんですか?」と聞くと

「ほとんどテイクアウトでですが、よく使いますよ。出勤前によったりとか」一緒に出口に向かいながら答えた緑山さんの声に続けて後ろから

「社長、今日も神の祝福がありますように」と信仰深いオーナーが声をかけてくれたので

「ああぁ、ごちそうさまオーナー」と返事をした。

その間に知未が「私たちは、二人とも休みの日には毎回来ますよ」

「それは、ラブラブですね」と緑山青年が言うと

「こらっ、寛記!その言い方は失礼だぞ。」と緑山さんが息子を叱った。

「いいですよ緑山さん、実際そうですし」と気にしていないことを言うと

「すみません社長」と言い軽く頭を下げると「では私たちはちょっと本社まで行きますので、良い休日を。また月曜日」といって別れようとする緑山さん。

「実は私たちも本社に行くところなんですよ。なんでしたら乗せて行きますけど」と言って車のキーを見せる

「ではお言葉に甘えていいでしょうか?」

「ええ、どうぞどうぞ」

「ではお願いします」緑山さんが答えたので車のもとに4人で向かう


駐車場に停めた車に向かっている時の知未が不機嫌なのは気がしたので近寄って耳元で

「どうしたの?」と聞くと

「なにも・・・・」とちょっと拗ねた感じで答えたので

「なにもじゃないだろ。どうしたんだい?」ともう一度聞くと

「二人っきりでイチャイチャしたかっただけです・・・」

「なんだ、そんなことか。大丈夫だよ。本社での用事が終わったらいくらでもイチャイチャしてあげるから」そう言うと

「約束よ」と言われたので

「うん、約束」と答えて頬にキスをしてあげた。



さてと・・・・

さっさとエルくんところに行って、残りの休日を謳歌するか・・・・


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