第6話 腿太郎、三人の友達

そんなこんだで鬼にゲームを持ち掛け圧勝する腿太郎の噂はみるみるうちに広がっていき、いつ何処に鬼が出たなどとの情報が自然と入ってくるようになりました。


東に船や荷物を海に投げ飛ばす鬼がいると聞けば、行って石投げ対決をし。

西に杉を引っこ抜く鬼がいると聞けば、行って綱引き勝負をし。

北に山を削る鬼がいると聞けば、行ってロッククライミング勝負をし。

南に津波を起こす鬼がいると聞けば、行って水面走り勝負をしました。


「お願いします!!弟子にして下さいよ!!」


と、腿太郎の後ろから三人の男がついてくる。


一人はひょろりとしていて胡散臭く、一人は好青年だが常に小走りで、一人はまっすぐじーっと腿太郎を見ています。


それぞれの町で鬼騒動に混じって悪さをしていた男達でした。

腿太郎は助けたつもりはありませんでしたが、結果的に助けた形になり、腿太郎の力に見せられた男達でした。

男達は腿太郎に弟子にしてくれるよう頼み込みましたが、腿太郎は首を横に振りません。


何せ腿太郎のこの旅は鬼を使っての修行なのですから。

それに腿太郎はまだ弟子の身です。

弟子が弟子を持つなんておかしな話です。


「そんな理由なんすか!?」


きちんと茶屋で向き合って説明したら呆れられました。

ちなみに先ほどから叫んでいたのは犬塚友蔵(いぬづかともぞう)という男で、今犬塚の隣で呆れ返っているのは雉尾亮之助(きじおりょうのすけ)という男でした。


「わかりました。腿太郎さん」


そこへ猿山笑彦(さるやまえみひこ)という男が挙手しました。


「弟子がダメなんですね」

「そうですね」


腿太郎は頷きます。


「友達ならどうですか?」

「友達」


腿太郎は考えました。

そうか、友達なら弟子ではないからおかしくはない。

頭のなかに子供の時から一緒に遊んだ日本猿と大鷹と日本狼の顔が過りました。

実は腿太郎。人間の友達がおりませんでした。

いたのは師匠達と師匠の弟子、つまりは腿太郎にとっての兄弟弟子しかおりませんでした。


「良いですね。友達」


腿太郎はあっさり了承しました。


こうして腿太郎はお友達となった犬塚と雉尾と猿山と一緒に鬼とゲーム巡りを始めました。


そうしているうちに腿太郎はみんなの得意技が分かってきました。


犬塚は足が早く、腿太郎と争える程でした。

聞くと前は飛脚をしていたらしく、腿太郎は納得しました。

どうやら荷物を鬼に奪われてクビになったらしく、この先どうしようかと自暴自棄になっていたところ、腿太郎が原因の鬼を石投げで懲らしめてくれたことに感動して着いてきたとの事でした。

弟子になろうとした決心は水面走りでした。


雉尾は突きが早く、腿太郎と手刀での薪割りで勝負出来るほどでした。

なんでも元は武者修行であちこちの岩を貫く修行中、鬼に修行場を荒らされてムカついていた所に腿太郎が垂直の崖を鬼と登り始めたのです。掴むところのないツルツルの崖を登っていく二人のあとに残されたのは等間隔に並んだ五つの穴。

なんと指を岩に突き刺し登っていたのです。

それで弟子入りしようと着いてきたとの事でした。


猿山は腿太郎の噂を聞き付けてなんとか弱味を握れないか、何か盗れるものはないかと探っていたが、あまりにも規格外過ぎて馬鹿馬鹿しくなり、いっそのこと最後まで付き合い、本として売り出した方が金になると着いてきたのだそうな。


「不純な理由だな。さすがは猿だ」

「うるさいぞ犬」


そうして互いに技を磨きながら鬼巡りの旅をしていると、猿山が腿太郎にこう言いました。


「腿太郎さん。もう本州にいる鬼をあらかた相手にしましたので、そろそろ鬼ヶ島に行きませんか?」


蕎麦を食べていた腿太郎含めた三人が考えても見なかったという顔をしていました。


「そうかそうか。そう言えば鬼は鬼ヶ島から来たのだった」


腿太郎はおばーさんが渡してくれた鬼の書を読み返しました。

一応鬼ヶ島の特徴は描いてあります。


「あれ?それ見たことあるぞ」


雉尾が言います。


「前、富士山に登ったときに海の中を移動していく変な島だなと思っていた事がある」

「なんでお前富士山に登ってんだよ…」

「そうかあれが鬼ヶ島か」


猿山がふむと考えた。


「実はその鬼ヶ島が近くで目撃されたらしいんだ。もしよかったら鬼ヶ島にいかないか?」


と、軽い感じで誘いました。


腿太郎は少し考え、猿山に言いました。


「鬼ヶ島の主は何が好きだろうか」


え?と三人は間抜けな声を出します。

ゲームの話だろうか?と犬塚が思ったとき、雉尾が訊ねました。


「どういう意味で?」


腿太郎は答えます。


「手土産を持っていこうと思う」

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