第5話 腿太郎、力比べ
他の三体の鬼と集合を果たした腿太郎。
どうやら鬼は強く地面を揺らすことで遠くにいる仲間を集めることができるようでした。
「さあ、何のゲームをするんだ。殴り合いか?」
腿太郎は首を横に振ります。
「家を引っくり返すのは力比べなのだろう。ならば力比べで勝負をしようじゃないか。それには大きな岩がいる」
近くの川に来た腿太郎と鬼達は、腿太郎に言われた通りに大きな岩を地面から引っこ抜きました。
「まずは一つの岩を持ち上げ、一周ごとに二個、三個と上に積み上げていこう。持てなくなったらそこで負け。最後まで持ち上げられたものが勝ちだ」
「なるほど。それなら分かりやすい」
まずは黄色い鬼、青い鬼、黒い鬼。そして赤い鬼が赤鬼の岩を持ち上げていき、最後に腿太郎が持ち上げました。
このくらい持ち上げねば話になりません。
「ひとつ足そう」
腿太郎が赤鬼の岩と黒鬼の岩を縄で結びました。
これで重さは二倍です。
その岩をひょいと黄鬼は持ち上げ、青鬼も黒鬼も赤鬼も持ち上げました。
次は腿太郎の番です。
「がっはっはっ。人間め、無理しなくていいんだぞう?」
「これで持ち上げられなくても仕方がない。何せ人間だからな」
「俺たちは鬼だからできるのだ」
「その代わり罰ゲームとして生意気な舌は切り取ってしまうがな」
ニヤニヤしながら鬼達は腿太郎が失敗するのを見てバカにしようとしました。
「心配無用です」
ですが腿太郎は片手で持ち上げてしまいました。
舌打ちをする鬼達に言いました。
「さあ、次は三個です」
そうして次々に繋げていき、とうとう五個目になりました。
「………」
なんと此処で黄鬼が脱落してしまいました。
嘘だろお前という視線を鬼達が黄鬼に向けました。
黄鬼も嘘だろと言いたげな顔で自らの腕を見詰めていましたが、持ち上げられなかった時点で負けは負けなのです。
「さあ続けよう」
それなのに腿太郎は片手で持ち上げていました。
なんなら人差し指で支えています。
「ナメるなよ人間が!!!!」
鬼達の士気が上がります。
決して人間等に負けてはならないと筋肉を膨張させて立ち向かいました。
しかし。
「はぁ…っ!!はぁ…っ!!」
黒鬼が脱落し。
「ちくしょおおおおお!!!」
続いて青鬼も脱落しました。
岩の数は10個となりました。
上に積み上げるのはほぼ不可能となり、横に膨らみます。
「まだ、まだああああああ!!!!」
15個目。
とうとう岩が上がらなくなってきて、ついに一ミリも上がらなくなりました。
赤鬼の敗けです。
赤鬼の顔がさらに赤くなっています。
「認めない!!!認めないぞ!!!!貴様もきっと上げることは出来ないだろう!!!引き分けだ!!!!」
そんな赤鬼の言うことは無視して、腿太郎は岩の元に歩いていきます。
そして縄に手を掛けると、ひょいと持ち上げてしまいました。
どう見ても腿太郎の勝ちです。
だけどどうしても人間に負けたことを認められない鬼達は。
「ズルだ!!!この人間はきっとズルをしたに決まっている!!!」
「そうだ!!人間はズルいやつだ!!!きっとこいつも何か卑怯な手を使ったに違いない!!!」
「でなければ我らが力比べで負けるわけがないのだ!!!」
等と言って、腿太郎に一斉に襲い掛かっていきました。
無駄な争いを避けようとゲームを持ち掛けたのにと、腿太郎は溜め息をつきます。
ならば仕方がない。拳で勝負だ。と、おじーさん仕込みの突きで鬼の鳩尾を殴って体をくの字に曲げさせ、更におばーさん仕込みのタイキックが炸裂。
「痛い痛い痛い!!何故だ!!?鬼の皮膚は岩の硬度と同じだ!!!何故攻撃が効く!!?」
鬼のその疑問に答えてやった腿太郎。
「何故なら私のタイキックは山ほどの大岩を相手に鍛練し、最終的に砕いたからです」
腿太郎に一切の攻撃が当たらず、一方的にタイキックを叩き込まれる鬼達の脳裏にとある記憶が蘇ります。
ああ、この状況はまるであの二人の人間の時と同じではないか。
「参った!参った!参りました!!!」
ついに降参した鬼達。
蹴りを叩き込まれたお尻と太ももは真っ赤になり、立っている姿は生まれたての小鹿のようです。
「もうなんの罪のない人間を苛めないと誓うか?」
「誓います!誓います!だから許してください!!」
涙を流しながら謝る鬼達を腿太郎は許しました。
そして腰に下げた袋からプロテインキビ団子を4つ取り出すと、それぞれの鬼の手に乗せました。
「切っ掛けはどうあれ、ゲーム自体は楽しかった。機会があればまた遊ぼう」
そうして腿太郎は去っていきました。
それからこの鬼達は家をひっくり返すことは止めることにしました。それよりも新しい目標ができた為です。
今度は絶対に腿太郎に勝ってやると、鬼達は繋がれたまま残された岩の塊を使って体を鍛え直し始めたのでした。
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