第3話 腿太郎、旅立つ

手紙を貰ったおばーさん。

紙を近付けたり遠ざけたりしていました。


「いかん。老眼が進んでおる。すまないが腿太郎や、代わりに読んでくれないかい?」

「わかりました。どれどれ」


おばーさんから手紙を受け取り目を走らした腿太郎。

そこで大変な事に気がつきます。


「おばーさん大変です。あまりにも達筆すぎて読めません」


なんと腿太郎。

繋がった文字を読むことが大の苦手だったのです。


五分ほど頑張りましたがやはり読めず、仕方なく男に朗読してもらうことになりました。


「なるほどなるほど。あいつら懲りずにまた来たのかい」


話の内容はこうでした。

昔々、おじーさんとおばーさんがまだやんちゃ盛りだった頃は鬼が我が物顔で人間達を苛めていました。それを見たおじーさんとおばーさんが、


『なぜあいつらは弱いもの苛めばかりで強いもの苛めをしないのか。そうだ良いこと思い付いた。弱いあいつらは数がいる。数が多いから俺たちと互角に遊べるはずだ。今から行って、罰ゲームありのゲームを持ち掛けてやろう』


と言い、鬼の大将に喧嘩を売りに行きました。


人間二人ごときに負けるわけないと余裕綽々で喧嘩を買った鬼達はあっという間にボコボコにされ、罰ゲームとしておばーさんに鬼の根城にしていた場所を蹴りで陸地から切り離され、おじーさんによって遠くに投げ飛ばされてしまいました。


その鬼達が島に取り付けた大きな櫂で漕いで戻ってきたと言うのです。


とても長生きな鬼達は、これだけ時間が経っていればあの人間はヨボヨボになっているか死んでいるから恐れることはない!といって暴れまわっているようなのです。


「なるほどなるほど。そういうことなんじゃな」


いつの間にかおじーさんが帰ってきていました。


「ぎょっ!!!?」


男は気付いていなかったみたいで、後ろにいたおじーさんに驚いて飛び上がりました。

正座のまま飛び上がるとは、なかなかやる男のようです。


そのまま着地したら足を痛めるとおじーさんが男を空中で捕まえ、ゆっくり下ろします。


「でもなぁ、流石に歳だしなぁ。危険だなぁ」


熊を余裕で殴り倒すおじーさんが言いました。


「わしもそろそろ膝や腰がヤバイからねぇ」


早朝からうさぎ跳で山を一周してきたおばーさんが言いました。


そうだ、とおじーさんが声を上げました。


「腿太郎や、鬼一匹は熊とほとんど大差ない。今回の数はどのくらいか分からんが、良い修行になるはずだからちょっと行ってきなさい」

「え!?」


おじーさんの突拍子のない提案に男は思わずおじーさんを見ました。


「確かに最近は強い獣が見当たらなくて北の熊と手合わせをしようと思っていました。鬼が熊と変わらぬなら手間が省けて良いですね。私が遊び相手で行きましょう」

「ええ!!?」


今度は提案を了承した腿太郎を見ました。


「じゃあ早速お弁当を作りましょうか。後で鬼が痛がる場所も教えましょうね」

「えええー!!?」
















「それでは行って参ります」


おじーさんからガントレットと動きやすい服を譲り受け、おばーさんからお弁当とプロテイン配合キビダンゴと鬼攻略書を受け取ると、腿太郎は男を担ぎ上げて出発しました。


「腿太郎さん」

「なんですか」


担がれたままの男が質問します。


「本当に一人で行くんですか?」


木をピョンピョン跳ねながらものすごい速度で山を降りる腿太郎が質問に答えます。


「はい。面白そうなので」

「面白そう……」


男は悟りました。

この腿太郎は確かにあの二人の弟子にピッタリな狂人だと。


50mの崖を腿太郎が颯爽と飛び降りた辺りで男は恐怖で気を失ってしまい、気が付けば近くの村で保護され、布団で寝かされておりました。


「気が付かれましたか。大変な目に遭いましたねぇ。あそこの山は修行する人しかいかないんですよ。私どもはあの山に負けた者が暮らす村です。どうぞお水です」


村人もムキムキでありました。

ムキムキな腕から水を受け取り飲み干しますと、人心地がつきました。


「ここまで送られてきた方からです」

「なんでしょう」


手渡されたのはプロテイン配合キビダンゴとお手紙でした。


お手紙には。

修行者と同じ感覚で下山してしまいました。

申し訳ありません。

次の機会がありましたら、修行者が登ってくる道を使って下山してみようと思います。

と、書かれておりました。


ふう、と男は息を吐き、もう二度と山を登らない事を誓いつつ、腿太郎の鬼退治達成を願ったのでした。

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