第2話 腿太郎、成長期

腿太郎は二人の師匠の元で哺乳瓶片手にすくすくと育ちました。


本当なら哺乳瓶じゃない方がいいのですが、諸条件で致し方ありません。

何を飲ませれば良いのか悩んだあげく、プロテインに落ち着きました。腿太郎もプロテインが好きなのか良い飲みっぷりです、


「腿太郎や、山で遊ぼう」


とおじーさんに言われれば。


「ばぶう」


と返事してからプロテインを飲み干し、おじーさんと一緒に猪を追い掛け。


「腿太郎や、海に行こう」


と言われれば。


「ばぶう」


と返事をしてからプロテインを飲み干し、おばーさんと一緒に川を下って海でマグロを捕まえました。


そうして三日も経てば木を登って猿に木渡りを教わり。

四日目に鷲に獲物の見つけ方を教わり。

五日目に狼に奇襲の仕方を教わり。


7日立てばすっかり一人前の男の子になっていました。


「コブシ師匠!!」


おじーさんの事です。


「山伏と一緒に修行に行きとうございます!!」

「あい分かった。迷子になるといけないから、まずはあの三ツ山まで一緒に散歩しよう。へたれることなく付いてこられれば許可してやろう」

「ありがとうございます!!」


というわけで、おじーさんと駆け足で三ツ山まで散歩し、戻ってきてから1ヶ月山伏と一緒に修行に参加しました。


貧相だった体が少しずつ逞しくなっていきます。


「クミテ師匠!!」


おばーさんの事です。


「格闘技を習いたいです!!修行の時に熊を倒しきれなくて悔しかったのです!!」


まぁなんと向上心のある子でしょう。

感激したおばーさんは目に浮かぶ涙を拭い、頷きました。


「よし分かった。わしの持っている全ての技を教えてやろう」


そうしておばーさんにしごかれ、1ヶ月経つ頃には熊を足一つで転がせるようになっていました。


そんな腿太郎を見て修行者達は思いました。


きっとこの子はこの二人よりも凄い強者になるぞ、と。


そんな感じで一年も経てば、立派な筋肉ゴリラ。

いえ、立派な男性に成長しました。

明らかに顔付きが日本人ではありませんが、まぁ、そんな細かいことは気にしません。

成長速度も気にしません。


期待に応えまくる腿太郎におじーさんとおばーさんは目を輝かせ、どんどん強くなれと自らの技を教え込んでいきました。


そんな中で腿太郎は気に入った技が出来ました。

タイキックです。


昔おばーさんが海で迷子になってさ迷いついた国で教えてもらったムエタイを腿太郎は大好きで、毎日練習しては山の大岩を蹴りまくっていました。


そんな時、一人の男が死にかけながらも山を必死に登ってきました。


「人が倒れとる」


途中で行き倒れたその男を腿太郎は発見し、看病してやるかと片手で担いで家に戻りました。


「あんら、腿太郎。誰だいそれは」


手刀で薪を割っていたおばーさんが腿太郎の持っているものに気付いて声を掛けてきました。


「倒れてた。死んではいない」


脈は測ったと伝えると、良くできましたとおばーさんは腿太郎を褒めました。

看たところ疲労で倒れているだけとは思いますが、こんな山でここまで疲れるものかねぇ?と首を捻っているとお腹の虫が聞こえてきました。


おばーさんや腿太郎のものではありません。

この男の腹です。


「ああ、腹が減っているのかい。なら納得したよ」


空腹ならば仕方がないと、腿太郎に男を運ばせ、食事を作ってやりました。


臭いで起きた男はおばーさんも腿太郎も目に入らないようで、無我夢中でご飯を食べ、ようやく満たされた時に二人に気付いてぎょっとしました。


「コブシ様がこんなに若い人だと聞いてない。きっと山違いだったのだ。すまないが、コブシ様とクミテ様の山がどこにあるか知りませんか?」


腿太郎とおばーさんが顔を見合わせました。

なるほど、腿太郎をおじーさんと間違えているようです。


「クミテはわしです。この子は弟子の腿太郎。コブシは出掛けているが、何かわしらに用ですか?」


おばーさんが訊ねると、男は顔を明るくして、懐から手紙を取り出し手渡しました。


「お願いいたします!!お二人の力を貸してください!!」

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